けんびきょう座アルファ星

けんびきょう座α星

けんびきょう座α星（アルファ・ミクロスコピー、α Microscopii、略称 α Mic）は、南天に位置するけんびきょう座の中央部に輝く恒星です。その視等級は約4.9等とされており、暗い場所であれば肉眼でも容易にその存在を確認できます。けんびきょう座の中では比較的明るい星の一つです。

距離と運動

地球からけんびきょう座α星までの距離は、最新の観測データに基づくと、およそ397光年と推定されています。この距離は、地球の公転に伴って生じる星の見かけ上の位置の変化（年周視差）を測定することで、高い精度で算出されました。

また、この星の宇宙空間における運動も観測されており、現在、太陽系から遠ざかる方向に移動していることが分かっています。その退行速度は、約14.5キロメートル毎秒に達すると計算されています。

物理的特徴

けんびきょう座α星は、進化の比較的進んだ段階にあるG型巨星に分類される天体です。具体的には、スペクトル型はG8 IIIとされており、これは恒星の表面温度、光度、サイズ、進化段階などを示す重要な指標です。G8という分類は、太陽（G2 V）よりもやや表面温度が低いことを示唆し、IIIという光度階級は、主系列星を終えて膨張した巨星であることを意味します。

この星の物理的なパラメータは、観測データと理論モデルに基づいて以下のように推定されています。

年齢: 約3億6千万年
質量: 太陽質量の約3倍
半径: 太陽半径の約15倍
光度: 太陽光度の約170倍
* 有効温度: 約4,923ケルビン

これらの数値から、けんびきょう座α星が太陽と比較して、はるかに大きく、明るい星であることが分かります。太陽の3倍の質量を持ちながら、半径が15倍にも膨張しているのは、中心核での核融合反応が進み、外層が大きく広がった巨星段階にあるためです。その結果、表面積が非常に大きくなり、有効温度は太陽より低いにも関わらず、単位時間あたりに放出される総エネルギー量、すなわち光度は太陽の170倍にも達しています。

見かけ上のペア

けんびきょう座α星は、天球上で非常に近い位置に別の星が観測されることから、二重星（重星）としてカタログに登録されています。このペアは、19世紀イギリスの著名な天文学者ジョン・ハーシェルによって記録されました。

けんびきょう座α星から見て南南東の方向、約20秒角という非常に狭い角距離の位置に、TYC 7465-1447-1という名称を持つ10等星が見えます。しかし、多くの二重星のように、これら二つの星が互いの重力によって結びついている物理的な連星である可能性は低いと考えられています。現在の天文学的観測からは、両者は地球から見た視線方向が偶然重なっているだけであり、実際の宇宙空間では大きく離れている可能性が高い「見かけ上の二重星」であると推測されています。

このように、けんびきょう座α星は、その進化段階にある物理的な性質や、見かけ上の二重星という特徴から、天文学的な興味を引く対象となっています。

もう一度検索