こころ (1955年の映画)

映画『こころ』の概要

映画『こころ』は、1955年8月31日に公開された日本作品で、監督は著名な市川崑が務めました。この映画は、夏目漱石の小説『こゝろ』を原作としており、深い人間の内面に迫るテーマを持っています。また、同時上映として『月夜の傘』や、9月7日からの『江戸怪盗伝』も上映されました。1966年にはエジンバラ映画祭にも出品され、その評価は国内外問わず高まりました。

企画の経緯

映画の制作は当初、市川監督が『ビルマの竪琴』の製作に着手していた時期に始まりましたが、さまざまな事情で撮影が難航していました。そこで、日活は急遽、市川監督に別の映画の企画を提案しました。市川監督は偶然、雑誌で久坂栄二郎が脚本を執筆した『こゝろ』に出会い、これを映画化することを思いたちました。

久坂に話を持ちかけると、彼の脚本は元々松竹で小林正樹監督によって映画化される予定でしたが、実現には至っていないことが判明しました。そのため、久坂は市川監督に映画化を任せることに快諾しました。しかし、日活がこの製作を発表した直後に松竹も同じ脚本で映画化を決定するという予想外の展開が起こりました。この事態により、久坂の脚本は松竹に返却され、その後日活は新たに長谷部慶次と猪俣勝人による脚本で制作を進めることになりました。

当初の脚本が返却された後、日活は市川監督に対して撮影を20日間で終えるように求めました。市川監督も次のプロジェクトである『ビルマの竪琴』の撮影が控えていたため、連日の徹夜で撮影に取り組み、この厳しいスケジュールを見事に達成しました。

公開と評判

映画『こころ』が劇場公開されると、多くの文芸評論家や映画評論家から高く評価されました。具体的には当時の著名な評論家である十返肇、井沢淳、谷村錦一、岡本博などから絶賛の声が寄せられました。作品の内容の深さや表現力について好評を得る一方で、意外にもその年のキネマ旬報のベストテンにはランクインすることはありませんでした。

スタッフとキャスト

本作の制作にあたったスタッフには、脚本に長谷部慶次と猪俣勝人が参加し、原作はもちろん夏目漱石の『こゝろ』です。製作を担当したのは高木雅行で、撮影には伊藤武夫や藤岡粂信が関わりました。音楽は大木正夫が担当し、美術には小池一美、録音は橋本文雄がそれぞれ手がけました。編集は辻井正則が務め、助監督には舛田利雄が名を連ねています。

キャスト陣も豪華で、森雅之が主人公の先生役を演じ、新珠三千代が奥さん役として出演しました。他には三橋達也、安井昌二、田村秋子など多くの実力派俳優が揃い、作品にさらなる深みを与えました。

結論

映画『こころ』は、市川崑監督の巧みな演出と、優れた脚本、魅力的なキャストが結集した、夏目漱石の小説を基にした感動的な作品です。公開当初は高評価を受けたものの、興行成績や評価においては期待に応えられなかった部分もあり、映画史における意味深い位置づけを持っています。

もう一度検索