こわれもの

プログレッシブロック・バンド、イエスの4作目のアルバム『こわれもの』(Fragile)は、1971年にリリースされ、バンド史において重要な位置を占める作品です。このアルバムは、後に「黄金期」と呼ばれることになるメンバーによって制作された最初のアルバムであり、その革新的なサウンドと音楽性は、多くのリスナーを魅了し続けています。

『こわれもの』の最大の特徴は、ストローブスのキーボード奏者、リック・ウェイクマンの参加です。彼は、イエスの音楽に独自の色彩と深みをもたらし、アルバムの個性的なサウンドに大きく貢献しました。ただし、ウェイクマンは当時A&Mレコードとの契約が残っていたため、作曲者としてクレジットされていません。そのため、自身の楽曲「ハンドル・ウィズ・ケア」はソロ作品として発表することを断念せざるを得ませんでした。代わりに、アルバムにはブラームスの交響曲第4番第3楽章をキーボードで多重録音した「キャンズ・アンド・ブラームス」が収録されています。

アルバムは、バンドメンバーによる4曲と、メンバーそれぞれのソロ楽曲5曲から構成されています。レコーディングは、数日間の休日を除き、毎日16時間、4～5週間かけて行われました。ウェイクマンによると、アルバムタイトルの『こわれもの』は、この過酷なレコーディング期間中のバンドの状態を表しているそうです。まさに、バンドメンバーの情熱と努力の結晶と言えるでしょう。

『こわれもの』は、ロジャー・ディーンがイエスのアルバムジャケットデザインを担当した最初の作品でもあります。ディーンの幻想的なアートワークは、アルバムの世界観をさらに豊かに表現し、リスナーの想像力を掻き立てます。

収録されている楽曲はそれぞれ個性豊かです。代表曲である「ラウンドアバウト」は、シングルカットされ全米13位を記録、その後もビデオゲームやアニメの主題歌として使用されるなど、幅広い世代に親しまれています。他にも、ジョン・アンダーソンのボーカルワークが際立つ「天国への架け橋」、クリス・スクワイアの7拍子の楽曲「ザ・フィッシュ」、スティーヴ・ハウのアコースティックギターソロ「ムード・フォー・ア・デイ」など、聴きどころ満載です。特に「燃える朝やけ」は、前半部にギターの8分の6拍子とベース＆ドラムスの4分の4拍子のポリリズムが展開され、プログレッシブロックの複雑さとダイナミックさを象徴する一曲となっています。

『こわれもの』は、その後も再発盤やリマスター盤、さらには5.1chサラウンド盤など、様々な形でリリースされています。2003年にはCDリマスター盤が発売され、音質が向上したほか、ボーナス・トラックとして「アメリカ」や「ラウンドアバウト」のアーリー・ラフ・ミックス版が追加収録されました。2002年にはティム・ウェイドナーによる5.1chサラウンド・ミックスのDVD-Audio盤がリリースされ、高音質で楽しめるようになりました。さらに2015年には、スティーヴン・ウィルソンによる5.1chサラウンド・ミックスのブルーレイ・オーディオ盤も発売され、様々な音源が収録されたコレクターズアイテムとなっています。

『こわれもの』は、イエスの音楽性と創造性を凝縮した傑作であり、プログレッシブロックの歴史に燦然と輝く名盤として、現在も高い評価を得ています。その革新的なサウンド、高度な演奏技術、そしてロジャー・ディーンによる幻想的なアートワークは、多くの音楽ファンを魅了し、時代を超えて愛され続ける理由となっています。メンバーの個性が際立つ楽曲群と、全体を統一するバンドとしての完成度の高さは、まさにプログレッシブロックの到達点の一つと言えるでしょう。

メンバーは以下の通りです。
ジョン・アンダーソン（ボーカル）
スティーヴ・ハウ（ギター、ボーカル）
クリス・スクワイア（ベース、ボーカル、ギター）
リック・ウェイクマン（キーボード類）
* ビル・ブルーフォード（ドラムス、パーカッション）

参考文献：Morse, Tim (1996). Yesstories: Yes in Their Own Words. New York: St. Martin's Press. ISBN 0-312-14453-9

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