しらね (護衛艦)

護衛艦 しらね（DDH-143）

海上自衛隊の護衛艦「しらね」（ローマ字: JS Shirane, DDH-143）は、しらね型護衛艦の先駆けとして誕生しました。その名は、山梨県と静岡県にまたがる白峰三山に由来するとされていますが、命名の背景には特異な事情が存在しました。

艦歴と初期の役割

1977年2月25日に起工され、1980年3月17日に就役した「しらね」は、就役当時、海上自衛隊で最大級の護衛艦でした。初期配備は横須賀基地となり、護衛艦隊の直轄艦として編成に加わりました。旗艦機能を持つ設計であったため、国内外の賓客を迎えるための公室など、充実した設備を備えており、その存在感から海上自衛隊の「顔」として多方面で活躍します。外国艦船来訪時のホストシップや、政府関係者の視察受け入れ、各種広報活動などを積極的に行い、特に観艦式においては国際観艦式を含め、延べ10回にわたり観閲艦という栄誉ある役割を務めました。

編成替えを経て、1984年3月30日からは第1護衛隊群の旗艦として、部隊の中心を担います。

改装と転籍

就役から四半世紀近くが経過した2004年には、性能向上を図るための改装工事が実施されました。この工事では、短距離対空ミサイル管制用の射撃指揮装置がWM-25から国産の81式射撃指揮装置2型-12（FCS-2-12）へ、ミサイル発射機は国産のGMLS-3へと換装され、搭載ミサイルもRIM-7Mに更新されました。これらの主要装備の一部は、前年に除籍された護衛艦「きくづき」から移し替えられたものです。

2008年の護衛隊改編を経て、2009年3月18日には後継艦であるヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」の就役に伴い、編成が第3護衛隊群第3護衛隊へと改められ、母港も横須賀から京都府の舞鶴へと移転しました。以降、「しらね」は舞鶴を新たな定係港として活動を続けました。

多彩な国際活動と国内貢献

「しらね」はその長い艦歴を通じて、国際的な舞台で数多くの実績を残しました。環太平洋合同演習（RIMPAC）には、1982年、1988年、1998年、2012年と計4回参加。初参加となった1982年のRIMPACでは、米空母任務群の一員として行動し、搭載ヘリコプターHSS-2Bが日米共同で仮想敵潜水艦を「撃沈」するという訓練上の成果を上げています。また、複数回にわたる米国派遣訓練や、フィリピン方面への外洋練習航海も行いました。1999年には韓国の釜山を訪問し、東シナ海で初めての日韓共同訓練を実施。2003年にはロシアのウラジオストクを訪問し、日露共同訓練に参加するなど、アジア諸国との連携強化にも貢献しています。

近年では、2005年にシンガポール沖で実施された拡散に対する安全保障構想（PSI）海上阻止訓練、2013年にはブルネイでの東南アジア諸国連合拡大国防相会議（ADMM+）枠組みでの人道支援・災害救援実動演習に参加するなど、その活動範囲は広範に及びました。国内では、2011年3月11日に発生した東日本大震災に対し、災害派遣活動に従事し、被災地支援にあたっています。

艦名の特別な経緯

「しらね」という艦名について、海上自衛隊は白峰三山に由来すると公表しています。しかし、艦名決定の背景には、通常とは異なる経緯があったと伝えられています。海上幕僚監部では、旧日本海軍の戦艦にちなんだ山岳名からの命名を希望し、当時の防衛庁長官に進言しましたが、長官がこれを退け、自身の出身地に由来する「しらね」と命名することを強く指示したため、異例の命名となったとされています。白峰三山の北岳も俗称として「白根山」と呼ばれることがありますが、国土地理院が正式な山名として「白根山」としているのは日光白根山と草津白根山のみであり、複数の山岳に存在する俗称です。

重大な火災事故

「しらね」の艦歴において、最も深刻な出来事となったのが、2007年12月14日に横須賀基地に停泊中に発生した火災事故です。無人の戦闘指揮所（CIC）から出火し、CIC内の機器がほぼ全て使用不能となる甚大な被害を受けました。

火災は午後10時過ぎに乗組員により発見されましたが、初期消火は奏功せず、鎮火には約8時間を要しました。横須賀市消防局への通報は、艦側からではなく市民からの通報を受けた消防局側が行うという異例の対応となりました。複雑な内部構造と、消火活動に使用された海水が電子機器にさらなる被害を与えたこともあり、CICは全損状態となりました。海上幕僚監部の事故調査委員会は、CICに無許可で持ち込まれ、艦内電圧に適応していなかった中国製の「保冷温庫」の過熱が出火原因となった可能性が高いと推定しましたが、最終的な断定には至っていません。この事故の責任を問われ、関係者には減給処分が下されています。

この火災事故による損傷は非常に大きく、戦闘指揮系統の完全な復旧には巨額の費用と長期間が必要と見積もられました。そのため、一時は当時除籍が予定されていた護衛艦「はるな」を延命させ、「しらね」を除籍することも検討されました。しかし、最終的には「はるな」のCICシステムを移植する方が、より短期間かつ比較的安価（約50億円程度）で修理可能と判断され、移植による修理が行われました。

艦歴の終焉とその後

火災事故からの修理を終え、再び任務に就いた「しらね」でしたが、2015年3月25日、後継となるヘリコプター搭載護衛艦「いずも」の就役に伴い、35年にわたる艦歴に幕を下ろし、除籍されました。その総航海距離は約79万海里（地球約36周分、約146万km）、総航海時間は約8万時間に及びました。

除籍後、「しらね」は新たな、そして最後の役割を与えられました。それは、開発中の国産超音速対艦ミサイルXASM-3の実弾発射試験における標的艦（実艦的）として使用されることです。このための改造を受けた後、若狭湾でXASM-3の標的として数回の試験に使用されました。標的としての役割を終えた後、「しらね」は解体されるため、2017年9月に舞鶴港を出港し、門司港へ向かいました。この移動中、関門海峡通過時に潮に流され、灯浮標に衝突し沈没させる事故を起こしています。門司港での調査後、再び江田島へ係留されました。そして同年10月31日、艦型標的として売却され、解体作業が開始されました。

「しらね」の全てが失われたわけではありません。かつて母港であった舞鶴の地には、その記憶が留められています。舞鶴地方総監部内の食堂「しらね食堂」には、救命浮環や艦歴銘板などが展示されており、また食堂で使用されている椅子は、かつて「しらね」の司令公室や士官室、先任海曹室で実際に使用されていたものが再利用されています。さらに、舞鶴基地に隣接する赤れんがパーク駐車場の一角には、本艦の主錨（前錨）が保存展示されており、長年にわたり日本の海上防衛を支えた護衛艦「しらね」の存在を今に伝えています。

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