ため息 (エルガー)

エドワード・エルガーが第一次世界大戦勃発の直前に作曲した『ため息』（Sospiri）作品70は、弦楽合奏、ハープ（またはピアノ）、そしてオルガン（またはハーモニウム）という独特な編成のために書かれた単一楽章の楽曲です。この曲は約5分の演奏時間で、エルガー後期の作品に位置づけられます。

作曲の背景には、エルガーの有名なヴァイオリンとピアノのための小品『愛の挨拶』（Salut d'Amour）との関連がありました。当初、エルガーは『愛の挨拶』と対になる作品として、ヴァイオリンとピアノのための楽曲を構想しており、その表題案としてフランス語で「愛のため息」を意味する『Soupir d'Amour』を考えていました。しかし、実際に作曲を進めるうちに、彼は作品が当初の軽い雰囲気を超え、より深く情熱的な感情を帯びていることに気づきます。この内面の変化を反映させ、彼は最終的にイタリア語で単に「ため息」を意味する『Sospiri』というタイトルを選びました。この題名の変更は、単なる愛の溜息から、時代背景も相まってより普遍的で哀愁を帯びた感情表現へと、楽曲の性格が発展したことを示唆しています。

この『ため息』作品70は、1914年8月15日にロンドンのクイーンズ・ホールにて、著名な指揮者ヘンリー・ウッドのタクトによって初演されました。この初演は、第一次世界大戦が始まったばかりの緊迫した時期に行われたことになります。楽曲は、エルガーの長年の友人であり、ヴァイオリニストとして彼の作品に深い理解を示したウィリアム・ヘンリー・リードに献呈されています。リードはエルガー作品の演奏や普及に尽力した人物であり、この献呈は作曲家と演奏家との深い信頼関係を示しています。

楽曲はニ短調のアダージョ、4/4拍子で書かれています。短い2小節の導入部を経て、第1ヴァイオリンが哀愁を帯びた主要な旋律を奏で始めます。この旋律は、作品全体の憂鬱で瞑想的な雰囲気を決定づけています。曲中には、これとは対照的に、広い音域を大きく動き回り、より熱情的な性格を持つもう一つの主題も現れます。この二つの異なる主題が、楽曲に多様な感情の動きをもたらしています。主となる哀愁の旋律は、一度提示された後、1オクターブ低い音域で再び現れ、内省的な深みを増します。曲の終結部は特筆すべきで、楽器の響きは次第に弱まり、ピアニッシッシッシモ（pppp）という極めて静かな音量で、ニ短調からヘ長調へと移りながら、あたかも遠い響きの中に消え入るかのように静かに幕を閉じます。約5分という短いながらも、この曲は深遠な悲しみと内省的な美しさを湛えており、来るべき時代を予感させるような静かな情熱を秘めています。その独特な編成と表現豊かな音楽は、エルガーの小品の中でも特に印象的な作品の一つとなっています。

もう一度検索