とかげ座BL

とかげ座BL（BL Lacertae）

とかげ座BL（BL Lacertae、略してBL Lac）は、宇宙に存在する極めて活動的な天体の一つで、その明るさが著しく、かつ不規則に変動する活動銀河核（Active Galactic Nucleus, AGN）です。特に、特定のタイプのブレーザーに分類される「とかげ座BL型天体（BL Lac天体）」のプロトタイプとして知られています。

発見と正体の解明

この天体は、1929年にドイツの天文学者クーノ・ホフマイスターによって発見されました。当初、その明るさの変化から、私たちはの銀河系内に位置する不規則型の変光星であると考えられていました。そのため、変光星の命名規則に従って、星座名とアルファベットの符号を組み合わせた「とかげ座BL」という名称が与えられました。

しかし、その真の性質は発見から数十年を経て明らかになりました。1968年、カナダのデービッド・ダンラップ天文台で観測を行っていた天文学者ジョン・シュミットは、とかげ座BLが強い電波を放射していることを発見しました。しかも、その電波の強さも可視光と同様に大きく変動していることが確認されました。この観測は、とかげ座BLが単なる変光星ではなく、より遠方の宇宙にある強力な電波源、すなわち活動銀河核であることを示唆しました。また、シュミットは、その中心を取り巻くように位置する、比較的暗い母銀河の存在も観測しました。

とかげ座BLが遠方の宇宙にあることが決定的に証明されたのは、1974年のことでした。天文学者のJ.B.Okeとジェームズ・E・ガンは、パロマー天文台の望遠鏡を用いて、とかげ座BLの光のスペクトルを詳細に分析し、その赤方偏移を測定しました。その結果、約21,000 km/sという非常に大きな後退速度を持つことが算出され、この速度が宇宙膨張によるものであることから、とかげ座BLが地球から非常に遠い距離に位置する天体であることが確認されました。この後退速度は、宇宙論的な赤方偏移の値 z=0.07に相当します。

特徴と分類

とかげ座BLは、ブレーザーと呼ばれる活動銀河核のサブタイプに属します。ブレーザーとは、中心にある超大質量ブラックホールによって駆動される、強力な相対論的ジェットを地球観測者の方向にほぼ正確に向けて放出している活動銀河核の総称です。ジェットからの放射が観測者の方向に指向しているため、非常に明るく見え、急速かつ不規則な明るさの変動を示すという特徴があります。

とかげ座BLは、ブレーザーの中でも特に「とかげ座BL型天体（BL Lac天体）」と呼ばれるタイプに分類されます。このタイプの最も顕著な特徴は、可視光スペクトルにあります。多くの活動銀河核、特にクエーサーのスペクトルには、中心核周辺のガスから放出される幅の広い輝線が明瞭に観測されますが、とかげ座BL型天体では、この輝線がほとんど、あるいは全く見られません。これは、ジェットからの非熱的放射（シンクロトロン放射や逆コンプトン散乱など）による連続光が極めて強力であり、母銀河や中心核、そして通常見られる輝線からの光を圧倒してしまうためと考えられています。ただし、非常に稀な状況では、弱い輝線が検出されることもあります。

とかげ座BLの明るさの変動は非常に劇的で、実視等級（人間の目で見たときの明るさを示す尺度）は、短い期間のうちに14等級から17等級の間で大きく変化することが観測されています。この変動は非常に不規則で、突発的に増光することもあれば、徐々に減光することもあります。

天球上でのとかげ座BLの位置は、以下の通りです。
赤経: 22時02分43.3秒
赤緯: +42度16分40秒

とかげ座BLは、BL Lac天体というユニークな活動銀河核のクラスを定義する基準となった天体であり、このタイプの天体の物理的性質やジェットからの放射メカニズムを理解する上で、現在も重要な研究対象となっています。

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