どうにもとまらない

山本リンダが1972年 6月5日に発表したシングル曲。1966年のデビュー曲『こまっちゃうナ』以来、長らくヒットに恵まれず低迷期にあった山本リンダにとって、起死回生の一曲となった。

楽曲は、まず作曲家である都倉俊一の手によるメロディーが先に完成し、これに阿久悠が詞をのせる形で制作された。当初、阿久悠はこの曲に『恋のカーニバル』というタイトルを考えていたが、『どうにもとまらない』に改められた。後に阿久悠自身、「もしタイトルが『恋のカーニバル』のままだったら、この曲の運命は全く違っていただろう」と語っており、タイトルの変更が楽曲の成功に大きく寄与したことを示唆している。

当時、この曲を初めて聴いた山本リンダは、そのサウンドに「すごくかっこいい」と強烈な手応えを感じ、「これでダメなら歌手はもうダメだ」と、自らの歌手人生を賭けるほどの覚悟を決めたという。

この楽曲の発表に合わせ、山本リンダはそれまでの清純派というイメージから一転、過激なまでのイメージチェンジを図った。切れ込みの入ったパンタロンに赤いブラウスを合わせた大胆な「ヘソ出しルック」、そして見る者を圧倒するようなエネルギッシュで挑発的な振り付けを披露。この革新的なスタイルは「アクション歌謡」と呼ばれ、日本の歌謡曲シーンに新たなジャンルを確立したと言われている。特に話題となったヘソ出し衣装は、「リオのビーチでかっこ良く歌いたい」という山本リンダ自身のアイデアが反映されたものだった。

商業的にも大きな成功を収め、オリコン集計で累計30万枚を超える大ヒットを記録。これは山本リンダにとって最大のセールス枚数となった。また、この曲で1972年の第14回日本レコード大賞作曲賞、日本歌謡大賞放送音楽賞を受賞するなど、音楽業界からも高く評価された。

年末には『第23回NHK紅白歌合戦』への出場を果たした。これは1967年の『こまっちゃうナ』以来、実に5年ぶりの出場であり、まさに復活を象徴する出来事となった。その後も1991年の『第42回NHK紅白歌合戦』で、もう一つのヒット曲『狙いうち』と共にこの曲を披露している。

エピソード：NHKでの「ヘソ出し」攻防

革新的なヘソ出しルックは、特に保守的だった当時のテレビ界で大きな話題となった。初めてNHKでこの曲を歌唱する際、局側から「ヘソを隠してほしい」と要請された山本リンダは、仕方なく腹部まで隠れるパンタロンを着用して歌ったが、納得がいかなかったという。

そこで山本は一計を案じる。2回目の出演時、腹部に大きな結び目があるブラウスを選び、リハーサルでは結び目でヘソが隠れるように控えめに踊り、「これでヘソは隠れますから」とNHKを説得して生放送に臨んだのだ。しかし、本番が始まると、山本はいつものように全身を使った激しいパフォーマンスを敢行。ダイナミックな動きによって結び目が揺れ動き、結果としてヘソがテレビ画面にはっきりと映し出されることとなった。この「既成事実」が功を奏したのか、年末の『NHK紅白歌合戦』に出場した際には、もはや局側からの指摘はなく、山本は堂々とヘソ出し姿で歌い切ったと伝えられている。

社会現象化

楽曲のヒットは、そのフレーズを社会に広めることにもなった。「どうにもとまらない」という言葉は、当時の世相を象徴する表現として新聞の見出しなどで頻繁に用いられた。例えば、田中角栄内閣が進めた日本列島改造論に端を発する、急激な地価や株価の上昇は、まさに「どうにもとまらない」状況として大きく報じられた。

現代版とカバー

2005年には、作詞者である阿久悠自身の手により、現代風にアレンジされた『どうにもとまらない〜ノンストップ』が発表された。原曲が女性の情熱的な愛をテーマにしていたのに対し、こちらは男性の恋愛への渇望が描かれている。また、この曲は時代を超えて多くのアーティストに愛され、MAX、モーニング娘。、倖田來未、中森明菜など、様々なジャンルのアーティストによってカバーされている。

発表から半世紀以上を経てもなお、『どうにもとまらない』は、山本リンダの代名詞として、そして日本のポピュラー音楽史におけるエポックメイキングな一曲として語り継がれている。

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