はくちょう座16番星Bb

はくちょう座16番星Bb（16 Cygni Bb、HD 186427 b）は、地球から見てはくちょう座の方向におよそ69光年離れた場所にある太陽系外惑星です。この惑星が属するのは、3つの恒星からなる三重連星系「はくちょう座16番星」で、太陽によく似た恒星である「はくちょう座16番星B」の周囲を公転しています。はくちょう座16番星Bbは、その極めて歪んだ軌道と、初めて三重連星系内で発見された太陽系外惑星であるという点で、惑星探査の歴史において重要な位置を占めています。

発見

この惑星の存在は、1996年 10月に公表されました。天文学者たちは、主星である「はくちょう座16番星B」のわずかなふらつき（視線速度の変化）を観測することで、その周囲を回る質量の大きな天体の影響を捉えたのです。この手法は、惑星そのものを直接観測するのではなく、惑星が主星に与える重力的な影響を検出する視線速度法と呼ばれています。

発見当初、はくちょう座16番星Bbの質量は、少なくとも木星の約1.68倍であると推定されました。この値は、当時の太陽系外惑星としては最大級であり、また、その軌道が極めて軌道離心率の高い、つまり非常に楕円形であることが明らかになりました。これにより、はくちょう座16番星Bbは、「エキセントリック・プラネット」と呼ばれる、歪んだ軌道を持つ太陽系外惑星の最初の例の一つとなりました。

質量の推定に関しては、惑星の軌道が観測者である地球から見てどれくらい傾いているかを示す「軌道傾斜角」が直接的に測定されていなかったため、当初はあくまで「下限質量」としてしか求められませんでした。また、複雑な三重連星系の力学的なモデルが十分に確立されていなかったことも、正確な質量決定を難しくしていました。

軌道

はくちょう座16番星Bbの軌道は、太陽系の惑星たちの比較的円に近い軌道とは大きく異なります。その軌道は非常に楕円形であり、主星からの距離は約0.54天文単位（約8,078万km）から約2.8天文単位（約4億1,888万km）の間で大きく変動します。この極端な軌道離心率は、発見された太陽系外惑星の中でも際立っています。

このような高い軌道離心率は、おそらくはくちょう座16番星Bが属する三重連星系内の他の恒星との重力的な相互作用によって生じたと考えられています。連星系による潮汐力の影響などが、惑星の軌道を歪ませたと推測されています。また、現在観測されている軌道も固定されたものではなく、今後数百万年といった長い時間スケールで、惑星の軌道がさらに大きく変化する可能性も指摘されています。

2001年には、位置天文学的な観測から、はくちょう座16番星Bbの軌道は地球からの視線に対して非常に大きく傾いている（約173度）可能性が示唆されました。もしこの角度が正しければ、惑星の実際の質量は木星の約14倍にもなると見積もられ、これは惑星と褐色矮星の境界とされる質量の範囲に入り込むことになります。しかし、その後の観測や研究により、この14倍という値はあくまで惑星の質量として考えられる上限値であるということが明らかになりました。

質量と物理的特徴

はくちょう座16番星Bbは、前述のように主星の視線速度の変化を検出することで間接的に発見されたため、その半径、組成、表面温度といった具体的な物理的性質はほとんどわかっていません。

質量の推定については、その後の研究でより正確な値が示唆されています。2012年に行われた研究では、はくちょう座16番星Bbを含む惑星系が安定して存在するためには、惑星の真の質量が木星の約2.4倍である必要があることが計算により示されました。この値が、現在のところ最も信頼されているはくちょう座16番星Bbの質量とされています。さらに、もし惑星が自転と公転の周期が一致する「潮汐固定」の状態にある場合、惑星系はより安定すると考えられています。

軌道がもたらす環境

はくちょう座16番星Bbの極端な楕円軌道は、惑星の環境に劇的な季節変化をもたらしていると考えられます。主星に最も近づくときと最も遠ざかるときとでは、受け取るエネルギー量が大きく異なるため、惑星の表面温度は激しく変動するでしょう。

しかし、興味深いシミュレーション結果も存在します。もしはくちょう座16番星Bbの比較的近い軌道に、地球の月のような衛星が存在していた場合、惑星が軌道を一周する間に、その衛星の表面に一時的に液体の水が存在できるような時期がある可能性が示唆されています。これは、極端な環境下であっても、生命が誕生・維持されうる条件が全く存在しないわけではないことを示唆しており、太陽系外惑星における居住可能性の研究においても興味深い事例となっています。

はくちょう座16番星Bbは、発見が比較的早期であったことに加え、極めて特徴的な軌道を持つことから、太陽系外惑星系の多様性を理解する上で重要な研究対象であり続けています。

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