ばんだい号墜落事故

ばんだい号墜落事故の概要

1971年7月3日、東亜国内航空（後の日本エアシステム）のYS-11型旅客機「ばんだい号」が、丘珠空港から函館空港へ向かう途上、函館空港への着陸直前に横津岳に墜落しました。この事故で、乗員乗客68名全員が犠牲となるという、大変痛ましい航空事故となりました。

事故当日、函館空港周辺は風雨が強く、着陸可能な最低条件をわずかに満たしているという状況でした。「ばんだい号」は18時5分頃、函館空港との交信で上空6000フィートを飛行中であることを伝え、着陸態勢に入ったら連絡すると告げたのを最後に消息を絶ちました。その後、海上保安庁と自衛隊による捜索が行われ、翌日の17時25分頃、自衛隊のヘリコプターが横津岳の南西斜面で墜落した「ばんだい号」を発見しました。事故調査により、正確な墜落時刻は18時10分頃であったことが判明しました。

事故原因の究明

事故を起こした「ばんだい号」は、導入されたばかりの新鋭機でした。事故調査委員会が設置され、事故原因の究明が行われましたが、当機にはフライトデータレコーダーやコックピットボイスレコーダーが搭載されていなかったため、完全な事故原因を特定するには至りませんでした。

事故原因として有力視されたのが、パイロットのミスによるものでした。当時の函館空港周辺は悪天候で、強い風が吹いており、機体が大きく流されていた可能性がありました。そのため、パイロットが無指向性無線標識（NDB）を通過したと誤認し、早めに旋回した結果、山に激突したという説が有力となりました。

しかし、この説には異論も多くありました。フライトレコーダー等の記録がないため、パイロットミスと断定するには証拠が不十分であるという批判がありました。また、空港周辺の目撃証言から、「ばんだい号」は一度空港上空まで到達し、旋回後に市街地を低空飛行した後、山の方へ進路を変えたという証言もありました。この証言と事故調査委員会の仮説との間に矛盾が生じたため、事故調査委員会は紛糾し、最終的に目撃証言を採用しない形で結論が出されました。

その他にも、函館周辺の航空地図が通常の北を上にする書き方でなかったため誤読したとする説や、機長に不測の事態が発生し、経験の浅い副操縦士が操縦したため事故に至ったとする説など、様々な説が唱えられました。事故当時、機長席には副操縦士が座っており、機長は指導担当として同乗していました。副操縦士の飛行時間は1万時間を超えていましたが、YS-11の飛行時間はわずか158時間であり、函館空港への離着陸経験はありませんでした。

1972年12月18日、事故調査委員会は最終報告書を発表しましたが、具体的な事故原因を特定するには至りませんでした。報告書では、パイロットが自機の位置を誤認し、旋回中に降下を完了しようとした結果、経路を逸脱した可能性や、強風によって機体が大きく流された可能性が指摘されました。

犠牲者と事故後の対応

「ばんだい号」には、乗員4名と乗客64名、計68名が搭乗しており、全員が犠牲となりました。乗客は、観光客や帰省客、家族連れなど、様々な人々がいました。中には、一家全員が犠牲となった家族もいました。また、中央競馬調教師の柏谷富衛や、南茅部町の町長も犠牲となっています。

事故発生後、函館市や七飯町を中心に、事故対策本部が設置され、捜索救助活動が行われました。しかし、墜落現場は悪天候で、山奥の急斜面であったため、捜索は難航しました。墜落した機体は原型を留めないほど大破しており、遺体や遺品が広範囲に散乱していました。遺体の収容には多くの労力と時間を要し、生存者はなく、全員の死亡が確認されたのは7月5日の午後でした。

その後、犠牲者の遺体は七飯町で安置され、遺族による身元確認が行われました。その後、函館市内の慰霊堂に移送され、合同葬儀が行われました。また、犠牲者の遺族の寄進により、京都の善能寺に本堂が建立されました。

東亜国内航空は、犠牲者の遺族に対し見舞金を支払いましたが、この金額は、翌年発生した日本航空ニューデリー墜落事故の際、見舞金額決定の参考となりました。事故から1年後、横津岳の墜落現場近くに慰霊碑が建てられました。その後、地元住民やボランティアグループによって整備が行われ、毎年追悼行事が開催されています。しかし、近年は遺族の高齢化や参加者の減少により、規模が縮小しています。

事故がもたらした影響

ばんだい号の墜落事故は、東亜国内航空の経営に大きな打撃を与えました。新会社発足から間もない時期に発生した事故は、会社のイメージを大きく損ない、運輸省からの信用も失墜させました。その後、東亜国内航空は日本エアシステムに改称し、最終的には日本航空に吸収合併され消滅しました。

一方、事故を教訓に、函館空港の設備は見直され、強化されました。滑走路の延長や航空監視レーダーの設置などが行われ、函館空港は国内有数の幹線航路空港へと発展を遂げました。

ばんだい号墜落事故は、多くの命が失われた痛ましい事故でした。事故原因の特定は困難でしたが、この事故を教訓に、航空安全に対する意識を高め、二度とこのような悲劇を繰り返さないようにすることが重要です。

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