ぱいかじ南海作戦

椎名誠による小説『ぱいかじ南海作戦』は、南の島を舞台にした冒険とユーモアに満ちた作品です。「ぱいかじ」とは沖縄方言で「南風」を意味し、作品全体に南国の気配を漂わせています。この小説は2004年4月、新潮社から刊行されました。

物語の主人公は、カメラマンとして働いていた会社を不況によるリストラで失い、さらに愛する妻・佐和子にも去られ、人生の目標を見失って孤独な日々を送っていた男、佐々木。失意のどん底にあった彼は、あてもなく一人、沖縄へと旅立つことを決意します。飛行機を降り、さらに船へと乗り継いで、佐々木が最終的にたどり着いたのは、自然豊かな西表島でした。

島の静かな砂浜に降り立った佐々木は、そこで偶然、奇妙な雰囲気を纏う4人組のホームレスと出会います。彼らと共に過ごした夜は、酒を酌み交わし、歌い、踊り、心から笑い合うという、久しく忘れていた楽しい時間となりました。しかし、翌朝遅く目覚めた佐々木は、目の前の光景に愕然とします。持ち込んだ全財産、バッグや貴重品などが綺麗さっぱり消え失せており、さらに驚くべきことに、ホームレスたちが一夜を過ごした仮住まいすらも跡形もなくなっていたのです。

見知らぬ島で全財産を失い、完全に途方に暮れる佐々木でしたが、新たな出会いが彼に光をもたらします。都会からやってきたという青年「オッコチ」、そして関西から来たという美しい女性2人組「アパ」と「キミ」との出会いです。彼らと共に、佐々木は砂浜での自給自足に近いサバイバル生活を開始することになります。アパとキミの存在は、食料調達や料理など、生活の質を大きく向上させます。サバイバル生活の中で、皆で力を合わせ、防犯のために砂浜に大きな落とし穴を掘ったところ、なんと天然のイノシシが落ちるという幸運にも恵まれ、一同は大いに喜びます。

そんな共同生活を送る中、佐々木は島内でホームレス4人組に関するある噂を耳にします。彼らが自分の財産を持ち去った犯人だと確信した佐々木は、彼らから財産を取り返すため、行動を起こすことを決意します。彼らが潜んでいると思われる離れ島に渡るという、“ある作戦”を決行するのです。作戦は成功し、4人組を見つけ出した佐々木は、彼らから見事な土下座での謝罪を受けることになります。

財産を取り戻し、元の砂浜に戻った佐々木たちの元には、アパとキミを迎えに来た親戚らしきおばさんたちが現れます。さらに、予想外の出来事が続きます。佐々木の元妻が関わるCM撮影のADが島にやってきて、翌日、「イントレ」と呼ばれる撮影用の高い足場が必要だと告げられるのです。この状況を聞きつけたのか、先ほどのホームレス4人組も再び現れ、皆で協力して木材でイントレを作り上げるという展開になります。撮影隊も島に到着し、静かだった砂浜は一気に慌ただしくなります。この奇想天外な出来事を通じて、佐々木は人生の予期せぬ展開と向き合い、新たな一歩を踏み出していくことになります。

本作は、2012年に実写映画として製作・公開されました。監督は、放送作家や脚本家として活躍する細川徹が務め、これが彼にとって初めての実写長編映画監督作品となりました。映画のロケは2011年11月に、原作と同じ舞台である沖縄県の西表島で敢行されています。公開は2012年7月14日で、新宿バルト9ほか全国の劇場で上映されました。

映画のキャッチコピーは、「終点の先にパラダイスがあった!・・・のか???」という、物語の持つユーモラスでありながらどこか皮肉めいた雰囲気をよく表しています。

主演の佐々木役は俳優の阿部サダヲが務め、主人公を取り巻く個性的な仲間たちとして、オッコチ役に永山絢斗、アパ役に貫地谷しほり、キミ役に佐々木希といった俳優陣が出演しました。その他、ピエール瀧、浅野和之、斉木しげる、大水洋介といった実力派キャストが脇を固めています。製作は「『ぱいかじ南海作戦』製作委員会」としてキングレコード、テレビ東京、BSジャパンなどが名を連ね、配給はキングレコードとティ・ジョイが共同で行いました。

主題歌には、シンガーソングライターである星野源の楽曲「パロディ」が使用されました。この曲は、映画公開直前の2012年7月4日に発売された星野源のシングル「夢の外へ」のカップリング曲として収録されています。

小説および映画『ぱいかじ南海作戦』は、南国の美しい自然を背景に、人生につまずいた男が経験する奇想天外な出来事と、そこで出会う人々との交流を、ユーモラスかつ温かい視点で描いた物語と言えるでしょう。

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