ひき岩群

和歌山県田辺市にそびえる奇岩群「ひき岩群」

和歌山県田辺市稲成町に位置するひき岩群は、東西1.5km、南北1kmにわたって連なる岩山群です。標高は最も高い場所で100mほどで、周囲はミカン畑や梅林に囲まれています。この地域は、その特異な景観と生物多様性から、吉野熊野国立公園の一部として指定されています。

特徴的な地形

ひき岩群の岩山は、南側がなだらかな斜面、北側が垂直に近い壁という非対称な形状をしています。これは、地層が傾斜した後に侵食を受けた結果、形成されたケスタ地形の一例です。岩の上部はほぼ裸地ですが、岩の間には低木林が広がっています。遊歩道が整備されており、一部の岩山には登ることができ、展望台からは田辺市街や田辺湾、遠く白浜まで見渡せる絶景が楽しめます。

名前と伝説

ひき岩群という名前は、岩山がそれぞれ三角形で、斜面がなだらかな様子が、ヒキガエルが押し合いへし合いしているように見えることに由来すると言われています。特に、ひき岩群南端の道路沿いにあるヒキガエルにそっくりの岩は「ひき岩」と呼ばれ、和歌山県の天然記念物に指定されています。この岩のそばには解説板が設置されており、訪れる人々にその歴史を伝えています。

豊かな生物相

乾燥した岩山でありながら、ひき岩群の合間には常に水が湧き出ており、湿地性の植物が育っています。モウセンゴケやコモウセンゴケなどの食虫植物、キキョウランやサイゴクホングウシダなどの珍しい植物が見られます。また、ツツジ類も多く、開花時期には美しい風景を楽しむことができます。この地域は、過去に度重なる伐採や山火事の影響で植生が貧弱になっているものの、独特の生態系が保たれています。

動鳴気峡と観光

ひき岩群を縦断する稲成川沿いには、かつては渓流美を誇った動鳴気峡（どうめききょう）があります。現在は、上流のため池や周囲の畑地開発により、その姿は失われつつありますが、周辺には希少な植物が生息しており、その重要性は変わりません。また、岩口池周辺は「ライオンズの森」として整備され、サクラやツツジが植えられています。春には桜祭りが開催され、多くの観光客で賑わいます。

ハイキングと自然観察

遊歩道は岩口池やその他数カ所から入ることができ、ハイキングを楽しむことができます。近くには、田辺市が運営する「ひき岩群ふるさと自然公園センター」があり、ひき岩群に関する展示や観察会を通じて、自然をより深く学ぶことができます。博物学者の南方熊楠もこの地を訪れ、植物採集を行ったという記録が残っています。

地質学的な特徴

ひき岩群は、約1200万～1800万年前に浅瀬に堆積した砂岩が隆起し、傾斜した後に侵食を受けて形成されました。礫岩の層には、紀の川から運ばれた丸い石英や結晶片岩が含まれています。砂岩は粗いため、滑りにくく、子供たちが岩をよじ登って遊ぶのに適しています。岩の表面には落書きが多く見られますが、水分を多く含む岩からは水が湧き出し、植物が生息しやすい環境を作り出しています。

ひき岩群は、その奇特な景観と豊かな自然、そして歴史的な背景から、多くの人々を魅了し続けています。ハイキングや自然観察、写真撮影など、さまざまな楽しみ方ができる場所として、訪れる価値のある場所です。

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