びわこ大博覧会

1968年、滋賀県大津市のにおの浜埋立地を舞台に、「びわこ大博覧会（BIWAKO FAIR '68）」が開催されました。この地方博覧会は、大津市制70周年と滋賀県政100周年を記念する重要な行事として企画され、琵琶湖および滋賀県の将来像を描き出すことを目指しました。また、2年後に控えていた日本万国博覧会（大阪万博）への序曲としての位置づけも持っていました。

博覧会のテーマは、「湖と文化の多面的追求」と「明日の滋賀県と大津市のビジョン」という二つの柱を中心に据え、琵琶湖という固有の資源と地域文化を深く掘り下げると同時に、来るべき未来への展望を示すことを企図していました。

開催に先立ち、その実施計画は、歴史学者の奈良本辰也氏を委員長とし、会田雄次氏、赤井達郎氏、上田篤氏、梅原猛氏、依田義賢氏、米田豊昭氏（地域計画建築研究所所長）、綿貫敏夫氏（千葉大学教授）といった、人文科学、都市計画、建築、教育など多岐にわたる分野の著名な有識者によって綿密に検討されました。

会場となったにおの浜埋立地は、総面積約33万平方メートル、うち会場面積は約16.5万平方メートルという広大な敷地を利用し、1968年9月20日から11月10日までの約2ヶ月間にわたって開かれました。主催は滋賀県、大津市、滋賀県農業協同組合中央会、滋賀県商工会議所連合会といった滋賀県内の主要団体が務め、総投資額は約5億5千万円に上りました。

会期中の来場者数は約98万5千人を記録し、有料入場者数は目標の100万人にはわずかに及ばなかったものの、約84万5千人が訪れるなど、地域に大きな賑わいをもたらしました。

会場内には、テーマを具現化する多彩なパビリオンや施設が設けられました。中心的な存在であるテーマ館「びわこ館」は、2階で大津京から現代に至る滋賀県の歴史や、30年後の琵琶湖・滋賀県・大津市の未来を描いた大ジオラマを展示。3階には西教寺の薬師如来像をはじめとする87体の重要文化財級の仏像が特別展示されました。また、「世界の湖館」では国内外の湖に関する資料を通して琵琶湖のあり方を問い、「未来館」では湖底都市や未来の住宅といった挑戦的なビジョンが紹介されました。

その他にも、動力付きの動物折り紙を音楽に合わせて動かすユニークな「おりがみ動物園」、水の物理的・神秘的な側面を光と音で表現した「水の神秘館」など、様々な趣向を凝らした施設がありました。

主要なパビリオン以外にも、万博館、交通科学館、電力電波館、生活科学館、女性館、観光物産館、タバコ館、農林水産館といった専門的なテーマ館や、西日本では初めて全円周映画が上映された「サーキノ館」など、多様な展示が並びました。

会場の外周には、祭典のひろばやレストハウスが配置され、休憩やイベントを楽しむスペースが提供されました。「希望のマイハウス」では未来の住宅を、「想い出横丁」では明治100年を偲ぶ展示が行われました。特に人気を集めたのは、「甲賀忍者屋敷」です。甲賀郡から移築された築300年の古民家には、吊り天井などの忍びの仕掛けが施されており、来場者の探求心をくすぐりました。この忍者屋敷は、博覧会終了後にびわ湖タワーへ移設され、閉園まで活用されたことが、当時の解説書から窺えます。

また、会場中央部には、600分の1スケールの「琵琶湖ミニチュア」が設置され、そこに琵琶湖の水を注いで造られた幅6メートル、深さ1.2メートル、全長1000メートルにも及ぶ水路「虹の運河」が整備されました。この運河では12人乗りのモーターボート50隻が運航され、水上からの視点や、人間と水との関わりを体感できるユニークなアトラクションとして多くの来場者に楽しまれました。

文化面では、歌手の三波春夫氏が歌う協賛歌「びわこ博音頭 花のびわ湖」が制作され、博覧会を盛り上げました。

びわこ大博覧会は、琵琶湖と滋賀県の豊かな歴史文化、そして未来への展望を国内外に発信する機会となり、多くの人々に地域の魅力を再認識させる契機となりました。また、翌々年に迫った大阪万博に向けて、大規模イベント運営のノウハウを蓄積する上でも重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

会場跡地は、博覧会終了後、公園やレジャー施設として活用され、現在の「びわこ大博覧会」の記憶は、当時の資料や写真の中に今も息づいています。

もう一度検索