ぽっぺん先生

『ぽっぺん先生』（ぽっぺんせんせい）は、作家・舟崎克彦が手がけた人気の児童文学シリーズです。また、この作品群の中心人物である架空のキャラクターの名前でもあります。

1973年に『ぽっぺん先生の日曜日』が最初の作品として発表されて以来、シリーズとして展開されました。この作品は、当時28歳だった舟崎氏にとって、初めて単独で執筆した長編児童文学です。

概要

物語は、口癖の「さて、そろそろはじめますか…。」とともに登場する、独活大学生物学部の助教授「ぽっぺん先生」がある日突然、奇妙で不思議な世界へ足を踏み入れることから始まります。シリーズの多くの作品が、このような非日常的な冒険の構成を基調としています。

作中では、ぽっぺん先生が旅先で出会う様々な動植物たちとの交流や対話、そして先生自身の考察として語られる生物学的な知識が、幻想的な冒険の展開を彩ります。その独特の世界観や展開から、『不思議の国のアリス』や『スプーンおばさん』シリーズ、あるいは『ドリトル先生』シリーズといった、異世界や動物との交流を描いた著名な作品群と関連付けて語られることがしばしばあります。

発表当時、日本の伝統的な児童文学とは一線を画す斬新な内容であったため、当初は刊行を引き受ける出版社を見つけるのに苦労したとされています。しかし、詩人の高橋睦郎氏の紹介を受け、同じく詩人である吉岡実氏が筑摩書房との間を仲介したことで、無事出版が実現しました。

絵画を志していた経験を持つ著者自身が、シリーズの挿絵を担当しているのも大きな特徴です。その挿絵は、発表当初、「E・H・シェパード（『クマのプーさん』の挿絵で知られる画家）の模倣にすぎない」と厳しい批評を受けたこともありました。しかし、舟崎氏は敬愛する画家と比較されたことをむしろ光栄と感じ、大いに喜んだといわれています。

シリーズの一作である『ぽっぺん先生と帰らずの沼』は、1982年にTBS系列でテレビアニメスペシャルとして映像化されています。しかし、現在までソフト化されたのは1985年頃に日本ビクターから発売されたVHDのみであり、非常に希少な存在となっています。

読者の中には、主人公ぽっぺん先生と著者自身の人物像を重ねてイメージする向きもあるようです。しかし、実際の舟崎氏は柔道の有段者で、大学時代には柔道部の主将を務めるほどのスポーツマンであり、作品中のぽっぺん先生とはその個性に大きな違いがあると言えるでしょう。

また、作中に登場するぽっぺん先生の勤務先である独活大学は、著者である舟崎克彦氏の母校、学習院大学がモデルとなっていることが知られています。

主な登場人物

ぽっぺん先生
シリーズの主人公。初登場時は38歳（後の作品で年齢は変動）。独活大学生物学部の助教授で、独身。故人である父は学者で、独活大学生物学部長の一番弟子でした。父が遺した古い屋敷に老母のバアサンと二人で暮らしています。本名は不詳ですが、いつも履いているつっかけのかかとが歩くたびに「ぽっぺん」という独特の音を立てることから、このあだ名で呼ばれるようになりました。縁の太い丸眼鏡と大きな鼻が特徴的な外見で、ポロシャツや顧問を務める競歩部のユニフォームをよく着ています。愛用の皮製つっかけは、33歳の時に水虫になったことがきっかけで履き始めたものですが、完治後も手放さずトレードマークとなりました。何度か教授に推薦されますが、提出する論文が「夢のような結論」に終わってしまうため、万年助教授のままです。好物はバアサンが作るけんちん汁で、クラシック音楽、特にベートーヴェンを敬愛していますが、自身は音痴です。高所恐怖症で自転車に乗れず、『ぽっぺん先生のどうぶつ日記』ではカナヅチであることも明らかになります。特技はベートーヴェンの似顔絵を何も見ずに描くことです。学童疎開の経験を持っています。

バアサン
ぽっぺん先生の母親。キリスト教徒で、洗礼名はメリー。汁物、特にけんちん汁が得意料理です。不思議な世界に迷い込んだぽっぺん先生が常に恋しく思い、現実世界へ帰還する目的の一つとなるのが、バアサンの手料理、特に温かい夕食です。しかし、物語の結末では、楽しみにしていた夕食にありつけない展開も描かれます。

ぽっぺん先生の父親
故人。学者で、独活大学生物学部長の一番弟子でした。自宅の書斎は元々彼の部屋であり、金の背表紙の『進化論』を大切にしていました。

鴨ノ橋（かものばし）
独活大学の地学教授で、ぽっぺん先生の同僚。「鉄仮面」というあだ名があります。

ぽっぺん先生シリーズ

2008年時点で以下のシリーズが刊行されています。筑摩書房から初刊が出版されました。また、これらの長編とは別に絵本の『ぽっぺん先生のどうぶつ日記』シリーズ（パロル舎）があります。

『ぽっぺん先生の日曜日』（1973年）
『ぽっぺん先生と帰らずの沼』（1974年）
『ぽっぺん先生と笑うカモメ号』（1976年）
『ぽっぺん先生とどろの王子』（1977年）
『ぽっぺん先生の動物事典』（1979年）
『ぽっぺん先生地獄へようこそ』（1983年）
『ぽっぺん先生の博物誌』（1985年）
『ぽっぺん先生と鏡の女王』（1988年）
『ぽっぺん先生と星の箱舟』（1991年）
『ぽっぺん先生のクリスマス』（1994年）
『ぽっぺん先生のどうぶつ日記』（全6巻、1983年-1984年）

テレビアニメ

1982年4月29日、シリーズの中から『ぽっぺん先生と帰らずの沼』が90分のスペシャルアニメとしてTBS系で放送されました。1985年頃に日本ビクターからVHDが発売されたのみで、これ以外のビデオソフト化はされていません。

声の出演（主なキャスト）

ぽっぺん先生: 岸部シロー
ナレーション／蜂須賀先生: 永井一郎
編集者／カケス: 千田光男
江戸ッ子カゲロウ／ヒキガエル: 野本礼三
大ナマズ: 八奈見乗児
九官鳥／トノサマガエル: 田の中勇
カワセミ／アツモリソウ: 松島みのり

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