まつだい芝峠温泉

新潟県十日町市蓬平に位置する「まつだい芝峠温泉」は、地域の豊かな自然に囲まれた静かな温泉地です。標高320メートルの芝峠に湧出し、特に併設される施設「雲海」からは、その名の通り条件が整えば雲海や美しい星空、また越後三山を含む雄大な山々を眼下に一望できます。この温泉は、当時の松代町（現在は十日町市の一部）が地域振興の一環として開発に着手し、1991年（平成3年）に開業しました。現在は、日帰りでの利用と宿泊の両方に対応した施設「雲海」を核とし、松代総合開発と上越観光開発による共同事業体が指定管理者として運営を担っています。

温泉開発には、長い歴史と地域の熱意が込められています。遡ること1952年（昭和27年）頃、この芝峠では帝国石油が石油資源の探査を目的とした掘削作業を行っていました。その過程で、偶然にも多量の温泉が勢いよく噴出したという出来事がありました。しかし、当時の松代町の財政状況では、その温泉を買い上げて活用する余裕がなく、惜しまれつつもコンクリートで塞がれてしまったというエピソードが伝えられています。この未利用に終わった「幻の温泉」の存在は、その後の温泉開発への期待へと繋がります。

それから35年の時を経た1987年（昭和62年）、名古屋市で活躍されていた実業家である須崎鹿三氏と須崎治吉氏の兄弟からの出資という形で、再び芝峠での温泉掘削計画が具体化しました。このプロジェクトは、掘削にかかる費用と土地の取得については須崎氏が負担し、湧出した温泉の具体的な利用法や施設開発の計画については町が主導するという特別な契約のもとで進められました。

翌1988年（昭和63年）5月には、いよいよ温泉掘削が開始されました。しかし、地質構造が複雑だったためか、掘削作業は当初の想定以上に難航します。目標としていた深度になかなか到達せず、湧出した湯量や湯温も当初の期待を下回る結果となりました。それでも、関係者の粘り強い努力の結果、1989年（平成元年）9月にはついに待望の温泉が噴出を迎えたのです。

温泉の湧出を受けて、町は施設の整備に着手します。1990年（平成2年）には、日帰り利用を主な目的とした共同浴場の建設が始まりました。そして、翌1991年4月、この施設は「レストビレッジ峰」という名称で正式にオープンしました。当初は共同浴場としての機能が中心でしたが、その後、農村基盤整備事業などと連携しながら温泉周辺のインフラ整備や開発が進められていきました。

施設の拡充も計画的に進められ、1993年（平成5年）7月には宿泊棟が完成し、「レストビレッジ峰」は日帰り入浴だけでなく、泊まってゆっくりと湯を楽しむことができる施設へと進化しました。また、これに先立つ1993年4月には、この温泉施設や近隣の松代ファミリースキー場など、町が所有する公共施設の効率的な管理・運営を担うため、第三セクター方式の企業である「松代総合開発株式会社」が設立されています。

さらなる発展のため、2003年には新たに2号井の掘削が行われ、新たな湯が湧出しました。この2号井から湧く温泉を活用するため、2005年の施設リニューアル時には、特に人気の高い展望露天風呂が設けられました。このリニューアルに合わせて、温泉の正式名称が「まつだい芝峠温泉」に、そして施設の名称が現在の「雲海」へと改称され、今日に至っています。

アクセスについては、北越急行ほくほく線まつだい駅からは約4km北に位置しており、同駅からの送迎サービスも利用可能です。車を利用する場合、関越自動車道の六日町インターチェンジからは国道253号を経由して約50分、越後川口インターチェンジからは国道117号を経由して約50分の道のりとなります。

周辺地域には、日本有数の美しい棚田景観が広がる越後松代棚田群や、国際芸術祭として知られる大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレの会場が点在しており、温泉と合わせて地域の文化や自然を満喫することができます。また、当温泉施設と同じく松代総合開発・上越観光開発共同事業体が指定管理者として運営に関わる施設として、十日町市松代ファミリースキー場や道の駅まつだいふるさと会館などがあります。

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