め組の喧嘩

め組の喧嘩：火消しと力士の乱闘事件

江戸時代初期の文化2年2月、つまり1805年3月に発生した「め組の喧嘩」は、町火消しの鳶職と江戸相撲の力士たちの間で起きた乱闘事件です。この騒動は、後に多くの講談や芝居の題材になり、江戸の町で語り継がれることとなります。

事件の発端

事件は、芝神明宮の境内で行われていた春場所の相撲を、め組の鳶職である辰五郎と長次郎が無銭で見物しようとしたことから始まりました。辰五郎たちが木戸で見物の許可を巡って口論していると、力士の九竜山が通りかかり、木戸番に肩入れしました。このため、辰五郎たちは一時退去を余儀なくされます。

しかし、彼らは相撲場から離れた後、芝居見物に向かいました。何も知らない九竜山がその芝居小屋に現れたことで、先ほどの恨みが再燃しました。辰五郎は見物客たちにあおられ、九竜山を晒し者にしました。ついに九竜山は耐えきれず、辰五郎を投げて芝居は台無しとなりました。

騒動の拡大

この混乱を収拾しようと、火消しの頭や相撲側の年寄も仲裁に入りますが、力士の四ツ車が九竜山の復讐心を煽ったため、状況は worsening しました。力士たちは仲間を呼び集め、火消し側もそれに応じて準備を整えます。さらには火の見櫓の早鐘が鳴らされ、仲間を呼び寄せる事態となり、騒動は一層の広がりを見せることになりました。

江戸町奉行と寺社奉行がそれぞれの管轄で事態の収束を試みましたが、乱闘は果てしなく続き、最終的には与力や同心が自ら出動し、火消しと力士合わせて36人が捕縛されることになりました。

事後処理と裁定

この騒動の後、火消しと力士のいずれもが訴えられました。裁定は9月に下されましたが、全体的に見て相撲側に対する処分は甘く、逆に火消し側には厳しいものとされました。事件の発端が火消し側であったため、また事態の拡大に貢献した火の見櫓の早鐘の使用が問題視されたからです。

火の見櫓の半鐘は遠島刑に処され、辰五郎は百叩きの上で江戸を追放されました。長次郎や早鐘を鳴らした長松も江戸追放の処分を受けましたが、他の火消したちは比較的軽い罰に留まりました。一方、力士側では九竜山が江戸を追放されましたが、他の力士にはお咎めがなく、事件の影響は限定的でした。

この騒動によって4月まで春場所は中断されましたが、実際には近年の町の記録では、こうした乱闘事件は決して珍しいものではなく、また庶民の間での関心を集める要因となったのです。特に今回の事件では、寺社奉行と町奉行、さらに勘定奉行の三者による裁定が行われるという非常に珍しい形をとりました。

余波と関連する人物

なお、「め組の喧嘩」の登場人物である辰五郎は、鳶職人としての新門辰五郎とは異なる人物である点に留意が必要です。新門辰五郎はこの事件当時幼少であり、後の火消しや鳶職人における名鑑に名を連ねることとなります。この事件は、大名や豪商だけでなく、庶民にも影響を与えた江戸時代の小さな物語ですが、それがゆえに歴史の一幕として語り継がれています。

このように、多くのフィクションの題材とされてきた「め組の喧嘩」は、江戸の町の人々にとって重要な文化的記憶として息を引き継いでいるのです。

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