もみあげ

もみあげとは

もみあげは、顔の側面、具体的にはこめかみから頭髪の生え際から連続し、耳たぶの下あたりまで伸びる毛髪の一部を指します。「揉み上げ」と表記されることもあります。

名称と語源

英語では「sideburns」と呼ばれますが、この語は19世紀半ばに「burnsides」が変化したものです。この「burnsides」という言葉は、アメリカ南北戦争の将軍であったアンブローズ・バーンサイド氏に由来します。彼は特に、口髭から繋がる豊かなもみあげで知られていました。顔の「側面（side）」に位置する毛であることから、「burnsides」が「sideburns」へと変化したと考えられています。

日本では関西地方を中心に「ちゃりげ」という別称で呼ばれることもあります。もみあげという言葉自体の語源は明確には分かっていませんが、文献上では江戸時代中期に記された大道寺友山の『落穂集』（1728年）に登場することが確認されています。

世界の多様なスタイル：バルカロタス

特にメキシコやコロンビアの一部地域では、頭髪を短く刈り上げ、顔の他の部分には髭を生やさず、もみあげだけを長く伸ばしたスタイルが「バルカロタス」と呼ばれました。今日ではあまり見られませんが、16世紀のヌエバ・エスパーニャ（スペイン領アメリカ）では、男性が自己主張や威厳を示す印として高く評価されていました。しかし、植民地当局がこれを禁止したことが、1692年の暴動の一因となったとも伝えられています。

文化・習慣におけるもみあげ

イスラームの習慣においても、もみあげは顔の毛として重要視されることがあります。いくつかのハディース（預言者の言行録）では、あご髭にもみあげが含まれるとされ、両方を生やすことが求められるという見解が示されています。これは、非イスラーム教徒との差異を示すものとして語られることもあり、特定の宗派や、先人の解釈に盲従しない立場のムスリムの間では、あご髭と一体として、もみあげを生やすことが宗教的な義務とみなされることがあります。

歴史的な変遷

西洋におけるもみあげの歴史

古代においては、もみあげは特別な意味を持っていたわけではありませんが、芸術作品に描かれることはありました。例えば、ポンペイ遺跡から発見されたモザイク画には、かの有名なアレクサンダー大王がもみあげを生やした姿で描かれています。

18世紀のポーランドより西のヨーロッパでは、男性があごひげをきれいに剃る習慣が一般的でした。しかし、19世紀に入りナポレオン1世の時代になると、あごひげのように幅広く伸ばしたもみあげが流行し始めます。これは特に軍人の間で広がりを見せ、やがて遠く離れた明治時代の日本にまで、西洋ファッションの波として伝わることになります。西洋における顔の毛の流行の再来は、軍の正装として始まった側面が強く、特に勇猛さを示すユサール連隊の見事なもみあげに触発されたと言われています。

このヨーロッパの流行は、南米にも伝わりました。特に若いクリオーリョ（植民地生まれのスペイン系白人）たちがこぞって取り入れ、ホセ・デ・サン＝マルティン、マヌエル・ベルグラーノといった多くの南米独立の英雄たちが、もみあげを生やした姿で肖像画や貨幣に描かれています。

19世紀のもみあげは、今日一般的なスタイルと比べてはるかに派手なものが多かったです。現在の「ムートンチョップ」と呼ばれるスタイルに似ていますが、さらに極端な例も見られました。当時の文学で「ほおひげ（side whiskers）」と表現されるものは、しばしばあごの下まで長く伸びたもみあげを指していました。

しかし、20世紀初頭になると、もみあげはあごひげと同様に急速に時代遅れのスタイルとなっていきます。例えば、1936年にアメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領が休暇中に短期間もみあげを生やしてみたところ、妻のエレノア夫人に笑われたという逸話も残っています。また、第一次世界大戦中はガスマスクの密閉を確保するため、口髭を除く顔の毛をきれいに剃ることが求められたことも、もみあげの衰退に拍車をかけました。

再びもみあげが流行し始めるのは、1950年代中頃のことです。1953年の映画『乱暴者』でマーロン・ブランドがもみあげを生やしたほか、特にエルヴィス・プレスリーの影響は絶大でした。「hoods」「greasers」「rockers」と呼ばれる若者たちが、反抗的な男らしさの象徴としてもみあげを誇示するようになりました。このスタイルは、1960年代のヒッピー文化にも普及し、さらに多様な広がりを見せます。1970年代に入るとさらに広範な人々の間で流行し、また、サンフランシスコやシドニーなど特定の都市のゲイクラブにおける象徴的なスタイルとしても認識されるようになりました。

このように、もみあげは歴史を通じて様々な意味合いを帯びてきました。時には堅苦しいヴィクトリア朝の象徴として、時には反抗やサブカルチャーの印として、あるいは単にその時代のファッションとして、その様相を変えながら受け継がれています。

日本におけるもみあげの歴史

江戸時代初期、特に江戸の町には「かぶき者」と呼ばれる若者たちがいました。彼らは奇抜な服装や髪型を好み、もみあげや口ひげを伸ばすのが流行しました。もみあげについては、鬢付け油を用いてねじり上げるスタイルなどが人気を博したと言われています。

まとめ

もみあげは、顔の側面という限られた領域ながら、時代や文化、個人のアイデンティティを反映する多様なスタイルが存在し、歴史的な変遷をたどってきた興味深い要素です。

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