やすらぎ (鉄道車両)

やすらぎ

「やすらぎ」は、かつて日本国有鉄道（国鉄）、そして東日本旅客鉄道（JR東日本）が1986年（昭和61年）から2001年（平成13年）までの間に所有していた、特別な鉄道車両です。これは「ジョイフルトレイン」と呼ばれる部類に属する和式客車で、旅の楽しさを追求して改造されました。

概要

この車両は、国鉄高崎鉄道管理局の企画により、1986年に12系客車から改造されて誕生しました。編成の両端に連結された車両はスロフ12形800番台、中間車両はオロ12形800番台となっています。改造工事は、幡生工場（現在の下関総合車両所本所）が担当しました。

車両構成と愛称

「やすらぎ」は6両編成で、各車両には北関東地方の主要な川の名前が愛称として付けられています。これらの車両はすべてグリーン車扱いでした。

1号車「神流」: スロフ12 827（旧スハフ12 130） - 定員28名、展望サロン付き
2号車「荒川」: オロ12 853（旧オハ12 319） - 定員36名、サロン室付き
3号車「利根」: オロ12 854（旧オハ12 320） - 定員36名、サロン室付き
4号車「吾妻」: オロ12 855（旧オハ12 321） - 定員36名、サロン室付き
5号車「渡良瀬」: オロ12 856（旧オハ12 322） - 定員36名、サロン室付き
6号車「碓氷」: スロフ12 828（旧スハフ12 131） - 定員28名、展望サロン付き

これらの改造は、大宮工場（現在のJR東日本大宮総合車両センター）で行われました。

コンセプトとデザイン

「やすらぎ」の開発にあたっては、従来の和式客車のイメージを刷新し、幅広い年代の利用者が楽しめる車両とすることが目指されました。そのために採用されたのが「和洋折衷」のコンセプトです。編成の両端に開放的な展望サロンを設けるなど、和風でありながら洋風の要素も取り入れたデザインとなりました。これは、同時期に登場した他のジョイフルトレイン「江戸」などとも一線を画す特徴でした。

車体外部は、クリーム色を基調に、青と赤の帯が配されており、車両の個性を際立たせていました。また、専用の牽引機関車として、EF60形19号機が「やすらぎ」と同じ特別な塗装をまとっていました。

快適な車内設備

客室は、掘りごたつ式の畳敷きが基本構造ですが、畳の一部を裏返すとテーブルとして使えるように工夫されており、全面を畳敷きにすることも可能な設計でした。各車両にはビデオプロジェクターとCDカラオケ装置が備えられ、プロジェクター使用時には天井の照明が消灯する仕組みも導入されていました。音響設備にはBOSE製のスピーカーが設置され、質の高いサウンドが提供されました。

利用者の利便性向上のため、出入口の引き戸は引退した新幹線0系の発生品を活用した自動ドアに変更され、全車両に給茶機も設置されました。

特徴的な車両構造

緩急車（1号車、6号車）

編成の両端を飾る緩急車（スロフ12形）は、スハフ12形から改造されました。元々乗務員室があった側の連結面が編成内側を向くように配置され、便所と洗面所を撤去した代わりに、車端部約5.85m分が広々とした展望室となりました。この展望室は、幅2m・高さ1.47mの大型一枚ガラス窓や、幅1.53mと1.3mの大きな側窓を備え、「サロンエクスプレス東京」や「江戸」といった他の展望車に匹敵する優れた視界を提供しました。展望室には洋風のソファーが11席配置され、この空間は完全に洋風のしつらえでした。また、展望室には推進運転に必要な機器も設置され、前面窓にはワイパーとデフロスターも装備され、後退運転時にもクリアな視界が確保されました。

中間車（2号車〜5号車）

中間車（オロ12形）は、オハ12形から改造されました。便所・洗面所側の出入口は残されましたが、反対側のデッキは扉が埋められ、代わりに全ての車両にサロン室が設けられました。サロン室の一部は衝立や襖で仕切ることが可能で、通路とはカーテンで区切ることもできました。このサロン部分には幅2mの固定窓が設けられ、ソファーとテーブルが置かれていました。

運用と終焉

「やすらぎ」は主に首都圏を中心に、東日本各地で団体専用列車として活躍しました。大口の団体輸送がある際には、同区に所属していた「くつろぎ」と連結して最大12両編成で運行されることもありました。特筆すべき運用としては、上信電鉄上信線への乗り入れが挙げられます。1992年には3〜4両編成に短縮して乗り入れ実績があります。

老朽化に伴い、JR東日本では2001年3月31日をもってその定期的な運用を終えました。しかし、その後6両すべてがわたらせ渓谷鐵道へ譲渡されることになります。

わたらせ渓谷鐵道でのその後

わたらせ渓谷鐵道では「わ01形」と改称され、「サロン・ド・わたらせ」という新たな愛称が与えられました。車体塗装もJR時代のものから黄色と青を基調としたデザインに変更されました。導入後は、冬期間運休となる「トロッコわたらせ渓谷号」に代わる団体専用列車として使用されました。ただし、譲渡された6両のうち実際に車籍編入されて使用されたのは、1号車、2号車、6号車の計3両のみでした。残りの3両（3号車、4号車、5号車）は部品取り車として、他の客車とともに足尾駅構内に留置されました。

当初は1号車と6号車（わ01-827、わ01-828）の2両編成で運行されましたが、利用客からトイレがないことへの不満が続出したため、急遽トイレ設備を持つ2号車（書類上わ01-855、実際はオロ12 853）を組み込んだ3両編成となりました。3両編成化後も団体列車として運用されましたが、こちらも老朽化が進み、2009年に廃車となりました。全車両は2009年9月から2010年1月にかけてオークションで売却されています。

売却後の車両は、現在も様々な場所で活用されています。わ01-827とわ01-828は桐生市内の昆虫販売店で、わ01-855（オロ12 853）はみなかみ町の個人に買い取られ、リサイクルショップの倉庫として利用されています。部品取り車だった車両のうち、3号車（オロ12 854）は群馬県安中市で飲食店を経て現在は模型店として、4号車（オロ12 855）は二分割されて片方が栃木市内の「魔方陣スーパーカーミュージアム」で展示されています。

「やすらぎ」は、その名の通り、利用者にとって心安らぐ旅を提供しただけでなく、引退後も様々な形でその姿を残し、人々の記憶や地域の風景の一部となっています。

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