らしんばん座

らしんばん座 (Pyxis)

らしんばん座は、現代の88星座の中の一つで、18世紀の半ばに誕生しました。この星座はフランスの天文学者ニコラ＝ルイ・ド・ラカイユによって考案され、もともとアルゴ座の一部が基になって作られました。星座のデザインは航海で使用される方位磁針、いわゆるコンパスがモチーフとなっています。日本のどこからでも全域を見ることができるものの、特に目立つ明るい星が少ないため、星座としては存在が目立ちません。

主な天体

らしんばん座には、4等星が南北に3つ並ぶほかには特に注目すべき天体はありません。恒星の中で最も明るいのはα星で、見かけの明るさは3.68等級の青色巨星です。β星は見かけの明るさが3.954等級の黄色巨星として、2番目に明るい星です。また、γ星は見かけの明るさ4.01等級の橙色巨星で、3番目に明るい星です。さらに、T星は再帰新星として知られ、1890年以降いくつかの新星爆発が観測されています。

由来と歴史

らしんばん座の命名は、1756年にラカイユが寄稿した星図に基づき、最初具体的に「羅針盤」を意味するフランス語の「la Boussole」として描かれました。そして、この星座は「海のコンパス」としても呼ばれていました。1863年には、ラテン語の名前「Pixis Nautica」に変更され、ヨハン・バイエルの『ウラノメトリア』においては、その一部として位置付けられました。

一方、1801年にドイツの天文学者ヨハン・ボーデによって星座名は「Pyxis Nautica」と改められました。その後、ボーデはこの星座の周りに「Lochium Funis」という新たな星座を創設しましたが、次第に支持を失い、19世紀末にはすたれてしまいました。

1843年には、ジョン・ハーシェルがこの星座を「マスト」と改名し、アルゴ座の一部とするよう提案しましたが、これも天文学者たちの間で認められず、結局ベンジャミン・グールドが1879年に独立した星座「Pyxis」として復活させました。1922年にIAUの設立総会で現行の88星座が定められる際、らしんばん座はその一つとして正式に名付けられました。

中国における位置付け

中国の天文学においては、らしんばん座の星々は二十八宿の南方朱雀七宿の「鬼宿」に位置付けられていました。特にβ星、α星、γ星、δ星の4つの星が「天を守る狗」または「狸に似た想像上の獣」を象徴する星官「天狗」を形成していました。

日本における呼称

日本では、1910年に「羅針盤」として呼ばれるようになり、その名称は現在も広く使われています。1952年に日本天文学会によって「らしんばん」と定められてからは、この名称が公式に用いられ続けています。また、1931年には「航海用羅針盤」としての紹介もなされ、現在でも天文学の資料での言及が見られます。これは、らしんばん座が他の星座に比べて明るさに欠けるにもかかわらず、その歴史と呼称が天文学界で根強く残っていることを示しています。

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