アイク歓迎実行委員会

アイク歓迎実行委員会：1960年アイゼンハワー大統領訪日と大規模警備体制

1960年、日米安全保障条約批准を記念し、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領の訪日が予定されました。しかし、左派勢力による激しい反対運動が予想され、これを抑止するために自由民主党は独自の警備組織「アイク歓迎実行委員会」を結成しました。委員長には橋本登美三郎が就任しました。

この委員会の活動は、既存の警察力だけでは大統領の警備が困難であるという危機感から始まりました。アイゼンハワー大統領と天皇皇后両陛下が乗るオープンカーによるパレードが計画されており、沿道警備には膨大な人員が必要でした。しかし、警察の動員できる人員は限られており、警備体制に深刻な懸念が生じていました。

この状況を受け、自由民主党は、元A級戦犯容疑者でもあった児玉誉士夫氏らとのつながりを活用し、右翼団体、暴力団、旧軍人、さらにはテキヤ（暴力団）、消防団関係者、宗教団体までも動員する、異例の警備体制を構築しようとしました。

具体的な動きとしては、稲川角二率いる稲川会などの暴力団が警備協力に名乗りを上げ、資金や装備の調達に奔走しました。戦闘服やヘルメットが大量に購入され、木刀に日の丸を模した偽装を施すなど、対抗手段も準備されました。さらに、バスを大量に借り上げ、組員を各地から集結させる計画も立てられました。

当時の状況は、左翼学生や労働組合員による大規模な反政府デモが連日発生しており、警察だけではデモ隊の抑止が困難な状況でした。そのため、実行委員会は、右翼団体や暴力団だけでなく、博徒やテキヤの親分衆にも協力を要請し、大規模な私設警備組織を形成していきました。

テキヤの親分衆は「全日本神農憂国同志会」を結成し、警視庁と連携しながら警備計画を立てました。1万5000人のテキヤを5個部隊に編成し、主要な場所に配備する計画が具体化され、大型トラックや指揮車も用意されました。

さらに、住吉一家などの他の暴力団も動員され、最終的には、暴力団員数万人、旧軍人、消防関係者、宗教団体関係者、右翼団体員など、総勢数万人に及ぶ警備態勢が構築されようとしていました。

しかし、大統領訪日の直前、大統領報道官がデモ隊に囲まれる騒ぎ（ハガチー事件）が発生し、大統領訪日は中止となりました。このため、「アイク歓迎実行委員会」の大規模警備網は実際に運用されることはありませんでしたが、この出来事は、冷戦期の日本における政治状況と社会不安を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。

この事件は、警察力だけでは維持できないほどの社会不安と、政治勢力と暴力団・右翼勢力の複雑な関係性を浮き彫りにしました。また、日本の安全保障問題における、政治的対立と社会秩序維持の難しさを示す歴史的な事例となっています。 右翼と暴力団の連携、大規模な私設警備組織の構築といった、民主主義国家としては異例な事態は、現代においても様々な議論を呼ぶ重要な出来事です。

もう一度検索