アイゼナハ車両製作所

アイゼナハ自動車製作所：100年を超える歴史と変遷

ドイツ・アイゼナハに位置するアイゼナハ自動車製作所（Automobilwerk Eisenach, AWE）は、1896年の創業以来、ドイツ自動車産業において重要な役割を果たしてきた歴史ある工場です。当初は兵器製造工場として出発した同社は、1898年にフランスのデコヴィル社とのライセンス契約により自動車製造に参入。ダイムラー、ベンツに続くドイツで3番目の自動車メーカーとして、その歩みをスタートさせました。

黎明期：ヴァルトブルクブランドと初期の試み

1896年に設立された当初は「アイゼナハ車両製作所 (Fahrzeugfabrik Eisenach, FFE)」として、兵器や自転車の製造を行っていました。アイゼナハのシンボルであるヴァルトブルク城にちなんで、ブランド名も「ヴァルトブルク (Wartburg)」と名付けられました。1898年の自動車製造開始は、2気筒エンジン搭載の車両から始まり、1899年にはベルリンで開催された世界初の国際モーターショーにも出展しています。しかし、初期の販売台数はわずか10台程度と、その道のりは容易ではありませんでした。

ディクシー時代：技術革新とブランド確立

1903年、FFEは財政難によりエアハルト親子が経営から離れ、「デキシー製造 (Dixi-Werke)」と社名を変更。技術部長として迎えられたヴィリー・ゼックは、GNOMロータリーエンジンの開発に携わった経験を生かし、革新的な技術開発を推進しました。この時代を代表するモデルは、1907年に登場した4気筒7320cc、65PS以上を誇る「U-35」です。その高い性能と信頼性で高い評価を獲得し、デキシーブランドの確立に大きく貢献しました。第一次世界大戦中は軍需生産に転換しましたが、戦後は自動車生産を再開。しかし、1921年には経営難からゴータ(鉄道)車両製作所に買収されました。

オースチン7ライセンス生産とBMWへの買収

ゴータ社傘下となった後も、デキシーブランドは継続されました。1920年代の不況下、小型車市場への参入を図り、1927年には英国オースチン社の小型車「オースチン7」のライセンス生産を開始します。高い人気を博したオースチン7は「ベイビー」とも呼ばれ、ドイツ市場においても成功を収めました。年間2000台の生産契約のもと、最初はノックダウン生産でしたが、すぐに部品の現地調達も進められました。左ハンドル仕様の「DA-1 3/25PS」は、ドイツ仕様（Deutsche Ausführung）もしくはDixi Austinとも呼ばれ、英国仕様とは異なる点もありました。様々なボディタイプがコーチビルダーによって製造され、庶民にも広く受け入れられました。

BMW時代：自動車メーカーとしての飛躍

1928年、BMWは自動車製造への参入を目指し、デキシー製造工場を買収。BMWアイゼナハ工場となり、Dixiブランドの生産を引き継ぎました。これはBMWの自動車製造の始まりでもあり、Dixi「DA 1」はBMW最初の自動車となりました。1932年にはBMW独自のモデル「3/20 AM-1」を発表し、独自開発への道を歩み始めます。第二次世界大戦中は軍用車両の生産に転換しましたが、終戦時には工場の6割が破壊されました。

東ドイツ時代：国営企業としての歩み

戦後、ソ連軍の管理下となり、東ドイツの国営企業「VEBアイゼナハ社」となりました。当初はBMWブランドの車両生産を継続していましたが、後に「EMW」ブランド、そして1953年には創業時の「ヴァルトブルク」ブランドが復活しました。東ドイツ時代は東欧諸国向けの自動車生産が中心となり、計画経済下での自動車生産が続けられました。

再統一後：オペル社アイゼナハ工場として

東西ドイツ統一後、1991年にゼネラルモーターズ傘下のオペル社に買収され、現在に至ります。オペル社は、旧東ドイツの労働者の高い技能を活かし、リーン生産方式を導入。生産性の向上に成功し、世界的に注目を集めました。アイゼナハ自動車製作所は、その歴史の中で様々な困難を乗り越え、時代に合わせて変化を遂げてきました。その歴史は、ドイツ自動車産業の発展と密接に結びついており、今後もその歴史と伝統を継承しながら、自動車生産を続けていくことでしょう。

もう一度検索