アイドルレスラー

「アイドルレスラー」とは、プロレスラーとしての活動だけでなく、アイドル歌手やタレントのような芸能活動も積極的に展開する女子プロレスラーを指す言葉です。また、卓越した容姿や華やかなスター性を持つ選手が、広義にこのカテゴリーで呼ばれることもあります。かつてアメリカの主要プロレス団体であるWWEでは、女子選手全般、特にこのようなタイプの選手を「ディーヴァ」と総称していました。

この概念の先駆けとされるのは、1974年に女子プロレスデビューを果たしたマッハ文朱です。彼女はもともとアイドル歌手を目指していましたが、オーディションに落選した後にプロレス界へ進みました。しかし、彼女が持ち合わせていたアイドルとしての輝きと人気は、それまでの女子プロレスのイメージを大きく塗り替えるものでした。歌手としてレコードをリリースするなど、短い活動期間ながらも団体の隆盛に大きく貢献し、その後の流れを作る端緒となりました。

続いて1976年には、ジャッキー佐藤とマキ上田による「ビューティ・ペア」が登場します。「歌って戦うアイドルコンビ」という斬新なスタイルは瞬く間に人気を博し、女子プロレス界に一大ブームを巻き起こしました。彼女たちが同年発表したシングル曲『かけめぐる青春』は、プロレスラーの楽曲としては異例の大ヒットを記録し、その影響力の大きさを証明しました。

1978年、今度は実際にアイドル歌手からプロレスラーへと転向したミミ萩原が現れます。彼女はその愛らしいルックスで人気を集め、「アイドルレスラー」という言葉が一般的に使われるようになるきっかけを作った存在と言われています。以降、彼女のように写真集やレコードのリリースなど、アイドル活動と重なる芸能活動を並行して行う選手が徐々に生まれていきました。

1984年8月、長与千種とライオネス飛鳥によって結成された「クラッシュギャルズ」は、プロレス界に社会現象とも言える空前の人気をもたらしました。彼女たちも『炎の聖書』などヒット曲を発表し、ビューティ・ペア以来のブームを再び巻き起こしました。この時期から、女子プロレスラーがアイドル路線を強く意識し、メディアへの露出や芸能活動を積極的に行う流れがより一層加速しました。

同じ1984年には、立野記代と山崎五紀のコンビ、結成当初「フレッシュ・コンビ」として活動し後に「ジャンピング・ボム・エンジェルス」（JBエンジェルス）として知られるようになったチームが登場します。彼女たちはその美しい容姿で「ポスト・クラッシュ」として注目を集め、日本国内だけでなく、アメリカのWWF（現在のWWE）でも活躍を見せ、国際的な知名度も獲得しました。

1986年に旗揚げされたジャパン女子プロレスは、おニャン子クラブのプロデュースを手がけた秋元康氏をアドバイザーに迎え入れ、「プロレス版おニャン子クラブ」をコンセプトに掲げました。この団体からは、キューティー鈴木をはじめとする、数多くのアイドル性を前面に出した選手たちがデビューしました。

1988年にデビューした井上貴子も、この流れの中で特筆すべき存在です。彼女はおニャン子クラブのオーディションで二次審査まで進んだ経歴を持ち、デビューするやいなや爆発的な人気を獲得しました。写真集やCDリリースなど芸能活動も精力的に行ったことから、彼女こそが真の意味での「元祖アイドルレスラー」であると位置づける見方もあります。

2010年代以降、日本のエンターテイメント業界におけるグループアイドルブームの高まりを受け、アイドル業界側からのプロレスへのアプローチも増加しています。アイドルグループを卒業した後にプロレスラーに転向する選手や、現役のアイドルとして活動しながら並行してプロレスラーとしてもリングに上がる選手など、その形態は多様化しています。

このように、アイドルレスラーは日本の女子プロレス史において、たびたび新しいファン層を獲得し、ブームを生み出す重要な役割を担ってきました。時代と共にその定義や活動内容は変化しながらも、リング上の戦いと芸能活動を両立させる独自の存在として、今なお多くの注目を集めています。

もう一度検索