アウストラル

アルゼンチン通貨アウストラル：高インフレに翻弄された5年間の軌跡

アルゼンチンは、歴史的に高インフレに悩まされてきた国です。1985年6月15日から1991年12月31日まで使用されていたアウストラル（₳）も、その苦悩の歴史を象徴する通貨と言えるでしょう。ISO 4217通貨コードはARA、補助通貨単位はセンターボ（₳1=100センターボ）でした。アウストラルの通貨記号「₳」はUnicode 5.0で初めて追加されたため、古いフォントでは表示されない場合があります。

アウストラル導入の背景には、慢性的な高インフレがありました。それ以前、アルゼンチンでは「ペソ・モネーダ・ナシオナル」(m$n) 、その後「ペソ」($)、そして「ペソ・アルヘンティーノ」($a)と、何度も通貨単位の変更が行われていました。1983年6月には、1万分の1のデノミネーションでペソ・アルヘンティーノが導入されましたが、インフレは依然として深刻な問題でした。

1985年、ラウル・アルフォンシン政権は、ハイパーインフレーション抑制を目指し「アウストラル計画」を発表。1,000ペソ・アルヘンティーノを1アウストラルとするデノミネーションと、物価・給与の1年間凍結を実施しました。対米ドルの公定レートはUS$1=₳0.8に固定されましたが、実際には闇市場での取引が主流でした。輸入品などは米ドル建てで取引されるのが一般的でした。

ペソ・アルヘンティーノからのデノミネーションに新貨幣発行が間に合わなかったため、当初はペソ・アルヘンティーノ紙幣にアウストラルの額面を捺印したものが流通しました。1985年末までに発行されたのは、₳1、₳10、₳100の紙幣と、1/2、1、5、10、50センターボの硬貨のみでした。アウストラル紙幣は、ペソ・アルヘンティーノ紙幣よりコンパクトなサイズに統一されました。

物価凍結令解除後の1986年下半期以降もアウストラル計画は継続されましたが、価格統制はかえって売り惜しみと景気後退を招き、インフレは再燃。1988年4月の対外債務デフォルト以降は、インフレは加速し、年間1000％を超えるハイパーインフレに陥りました。1989年には世界銀行からの支援も停止され、アルゼンチンは国際的な孤立を深めました。

アウストラルの高額紙幣は、インフレのスピードに発行が追いつかず、旧ペソ紙幣を修正して使用されることもありました。硬貨に関しても同様で、1989年以降はアルミニウム製の硬貨が発行されました。

1989年7月、カルロス・メネム政権発足後も経済混乱は続きましたが、1990年後半からインフレは徐々に鎮静化。1991年には、US$1=₳10,000の固定相場制「通貨兌換制度」が導入され、翌1992年1月1日には、1万分の1のデノミネーションでペソが導入されました。このペソは、対米ドルで1対1の交換比率が維持されました（2002年1月のペッグ制崩壊まで）。

アウストラルからペソへの移行は、過去のデノミネーションに比べ比較的スムーズに行われ、1年前後で完了しました。アウストラルは、アルゼンチンの経済史において、高インフレと闘ったものの、最終的には克服できなかった時代の象徴として記憶されています。アウストラルの通貨記号は、ゲーム『Among Us』の非公式MODにも登場しますが、特に関連性はありません。

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