アウストラロピテクス・アファレンシス

アウストラロピテクス・アファレンシス：人類進化の重要な一歩

アウストラロピテクス・アファレンシス（Australopithecus afarensis）は、約390万年前から290万年前にかけて存在した化石人類の一種であり、「アファール猿人」とも呼ばれます。彼らは、同時期に存在したアウストラロピテクス・アフリカヌスと同様に、スリムな体型をしていました。研究の結果、アウストラロピテクス・アファレンシスは、アウストラロピテクス属とヒト属の共通祖先であり、現代のヒトに直接繋がっていると考えられています。

発見場所と分布

アウストラロピテクス・アファレンシスの化石は、アフリカ東部でのみ発見されています。タイプ標本はタンザニアのラエトリで見つかりましたが、有名な「ルーシー」を含む大部分の化石は、エチオピア北東部のハダール村で発見されています。その他にも、エチオピアやケニアで発見例があります。

身体的な特徴

頭部の特徴と脳のサイズ

アウストラロピテクス・アファレンシスの犬歯や奥歯は、現代人や絶滅した類人猿と比較して小さかったものの、現代人よりは大きかったとされています。脳のサイズは380〜430mlと比較的小さく、顎が前に突き出た原始的な顔をしていました。

1970年代にアウストラロピテクス・アファレンシスが発見される以前は、ホモ・ルドルフエンシスなどが約800mlという大きな脳を持っていたため、直立二足歩行は脳のサイズ増大の結果であると考えられていました。そのため、脳が小さく原始的な顔立ちのアウストラロピテクス・アファレンシスが直立二足歩行をしていたことは、当時としては驚くべき発見でした。

直立二足歩行

アウストラロピテクス・アファレンシスの運動行動については、現在でも議論が続いています。平地でほぼ完全な直立二足歩行をしていたと考える研究者もいれば、一部樹上生活を送っていたと考える研究者もいます。手、足、肩の関節の形態からは、樹上生活をしていた可能性も示唆されています。指や爪先の骨の湾曲具合からは、木を掴んだり、登ったりするのに適していたことが分かっています。また、手首を固定する機構があったことから、四足歩行をすることもあったと推測されています。肩の関節も、現代人よりも頭側に偏っています。

しかし、アウストラロピテクス・アファレンシスが直立二足歩行をしていたことを強く示す証拠も多く存在します。骨盤の形は類人猿のものよりもヒトのものに近く、腸骨は太くて短く、仙骨は幅広くて股関節と大腿直筋に直結しています。さらに、大腿骨の角度も、尻から膝の方に向かっています。これにより、体の中心線に沿って足を下ろすことが可能となり、直立二足歩行をしていたことが強く示唆されます。現存する動物の中ではヒトの他に、オランウータンとクモザルだけがこの特徴を持っています。また、足の爪先は大きく、後肢で枝を掴むのは困難であったという指摘もあります。踵の関節の形状もヒトに非常に近いことが分かっています。

骨格の慣性モーメントと運動学を計算に入れたコンピュータシミュレーションの結果、アウストラロピテクス・アファレンシスはヒトと同じように直立二足歩行できましたが、チンパンジーのようには歩けなかったという結論が得られています。直立歩行は、膝と腰を折り曲げて歩くよりも効率的で、エネルギー効率は2倍も良いのです。これらのことから、アウストラロピテクス・アファレンシスは短い距離を直立二足歩行していたと考えられ、ラエトリでの足跡の化石から、その速度はおよそ1.0m/sであったと推定されています。これは現代人が市街地を歩く速度とほぼ同じです。

一般的に、直立二足歩行はチンパンジーやゴリラのような腰を曲げて手を突いて歩く歩き方から進化したと考えられています。しかし、チンパンジーとヒトが分化したとされる約500万〜800万年前に生きていたオロリン・トゥゲネンシスも二足歩行をしていたことを示す証拠があります。また、現代の類人猿やその祖先の化石を見ると、木に登るために直立する骨格を進化させてきたことが分かります。これらのことから、直立歩行自体は、樹上生活の必要性から進化したと考えられています。スマトラ島のオランウータンの研究では、大きな安定した枝の上を歩く時や細い枝の下を渡る時は四足を用い、直径4cm以下の細い枝の上を歩く時には腕でバランスを取りながら二足を用いて歩行することが明らかになりました。このような行動によって、樹冠の果物を取ったり、他の木の枝に移ったりすることが可能になります。約1100万〜1200万年前に気候が大きく変わったことにより、アフリカ東部から中央部の森林の様子が大きく変わり、樹上生活を諦めて地上に降りてきたヒトの祖先と、樹上生活により適応しようとしたゴリラやチンパンジーの祖先が分かれました。

社会性

既に絶滅した種の化石から、その社会的行動を推測するのは困難です。しかし、現代の霊長類やサルの社会構造から、性的二形などある程度のことを予想することは可能です。アウストラロピテクス・アファレンシスのオスとメスの形態にどれほどの差があったかについてはまだ議論がありますが、オスはメスに比べて大きかったようです。もし類人猿の性的二形や社会構造が当てはまるのであれば、アウストラロピテクス・アファレンシスも一匹のオスと何匹かのメスからなる小さな家族単位で生活していたと推測できます。

アウストラロピテクス・アファレンシスが石器を使ったという証拠はなく、現在見つかっている最も古い石器は約250万年前のものです。

系統に関する疑問点

ルーシーの発見者であるドナルド・ヨハンソンとティム・ホワイトは、発見した化石の詳細な形態学的解析を行い、顎と歯の形状から、アウストラロピテクス・アファレンシスはヒトと類人猿の中間的な存在であると結論付けました。彼らはこの種をヒト属には入れず、アウストラロピテクス属に入れることを提案しました。そして、この種がアウストラロピテクス・アフリカヌスやアウストラロピテクス・ロブストゥスの祖先であるとともに、ホモ・サピエンスを含むヒト属の祖先でもあると確信し、この説は広く受け入れられました。しかし、2006年にYoel Rakらは、2002年に見つかった下顎の骨の形状がゴリラと良く似ていることを発見し、アウストラロピテクス・アファレンシスはパラントロプス属に分類されるべきであり、現代のヒトの直接の祖先ではないと結論付けました。彼らは、ホワイトらが1999年に発見したアルディピテクス・ラミドゥスこそが現代のヒトの祖先と呼ぶにふさわしいと主張しています。

主な化石

タイプ化石: タンザニアのラエトリで発見された大人の下顎の化石（LH 4）
AL 129-1: 初めての膝関節の化石
ルーシー: 初めての全身骨格
サイト333: 200以上の欠片からなる、初めて発見されたアウストラロピテクス・アファレンシスの家族の化石。13個体が含まれており、鉄砲水で死亡したと考えられています。
* セラム（ディキカ・ベビー）: 3歳の女児の化石。樹上生活と直立二足歩行の両方に適応していたと考えられています。

アウストラロピテクス・アファレンシスは、人類進化の過程を理解する上で非常に重要な存在です。今後の研究によって、彼らの生態や進化における位置づけがさらに明らかになることが期待されます。

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