アウトメドーン

古代ギリシャの神話に登場するアウトメドーン（古希: Αὐτομέδων）は、父をディオーレースとする人物です。長母音を省略してアウトメドンとも表記されることがあります。彼は特に、トロイア戦争における最大の英雄の一人、アキレウスの駆る無敵の戦車の御者としてその名を後世に伝えています。単に戦車の操縦を任されていただけでなく、アキレウスからは彼の最も親しい友人であるパトロクロスに次ぐほどの厚い信頼を寄せられていました。

アウトメドーンは、ただアキレウスの従者であったわけではありません。トロイアへと遠征したギリシャ軍においては、彼自身の故郷であるスキューロス島から集められた10隻の船団を率いる指揮官の一人として参加しています。これは、彼が単なる御者にとどまらない、ある程度の地位と指導力を持つ人物であったことを示唆しています。

トロイア戦争が激化し、ギリシャ軍が窮地に立たされた際、パトロクロスは友アキレウスの武具を身にまとい、戦場に打って出ることを決意します。この時、パトロクロスの戦車の手綱を握ったのがアウトメドーンでした。彼は、アキレウスが所有する不死の馬であるクサントスとバリオス、そしてペーダソスという名馬たちを戦車につなぎ、パトロクロスと共に敵陣へと突入しました。彼は巧みな御者として、パトロクロスが次々と手柄を立てるのを陰で支え続けたのです。

しかし、戦況は無情にも転じます。勇戦したパトロクロスは、トロイア軍の総大将ヘクトールによって討たれてしまいます。この衝撃的な出来事の後、アウトメドーンは大きな困難に直面しました。主を失った不死の馬たちは深く悲嘆にくれ、御者であるアウトメドーンの手綱を離れて戦場を無秩序に駆け回り始めたのです。彼は馬たちを制御することができませんでしたが、この予測不能な暴走が皮肉にも彼の命を救うことになりました。激しく追撃してきたヘクトールから、馬たちが勝手に戦列を離れたおかげで逃れることができたのです。

戦場から離脱した後も、アウトメドーンはパトロクロスを失った悲しみと、その主を失った馬たちの沈痛な様子に心を痛め、なかなか彼らを落ち着かせることができませんでした。しかし、全能の神ゼウスが馬たちに新たな力を吹き込んだことで、彼らは再び戦場へと戻る活力を取り戻しました。

再び戦列に加わったものの、アウトメドーンは依然として厳しい状況にありました。御者として馬を操りながら、同時に敵と剣を交えることは非常に難しく、彼は思うように戦果を挙げることができませんでした。その窮地を見た、アキレウス配下の精鋭部隊であるミュルミドーン勢の戦友アルキメドーンが駆け寄ります。アウトメドーンは迷わず戦車の手綱をアルキメドーンに託し、自らは前線に躍り出て、槍を手に敵と戦い始めました。

この混乱の中、ヘクトールと、もう一人の有力なトロイアの英雄アイネイアースは、アキレウスが所有するあの伝説的な不死の馬に目をつけ、それを奪おうとアウトメドーンに迫ってきました。絶体絶命の危機に瀕したアウトメドーンは、近くにいたギリシャ軍の英雄たち、メネラーオスや、大アイアース、小アイアースといった勇者たちに大声で助けを求めました。彼らの加勢を得て、アウトメドーンは敵の猛攻を防ぎつつ、見事アトレスという名のトロイア兵を討ち取る活躍を見せました。さらに、ヘクトールが投げた鋭い槍を紙一重でかわし、敵の一人アレトスを倒してその見事な武具を奪うことにも成功しました。

パトロクロスが戦死した後も、アキレウスはアウトメドーンを厚く信頼し続けました。彼はアルキモスという別の従者と共に、アキレウスに特に重用されました。アキレウス自身が壮絶な最期を遂げた後、アウトメドーンはその息子である若き英雄ネオプトレモスの御者となり、新しい主の戦いを支えたと伝えられています。

アウトメドーンの物語は、偉大な英雄の影に隠れがちながらも、困難な状況下で忠実に任務を遂行し、自身の武勇も発揮した、信頼厚い人物像を描き出しています。彼の名は、アキレウスの戦車と共に、ギリシャ神話の戦記の中に確かに刻まれています。

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