メドーン

ギリシア神話のメドーン

ギリシア神話には、メドーン（古希: Μέδων, Medōn）という名前を持つ複数の登場人物が存在します。長母音を省略してメドンとも表記されるこの名前は、異なる背景や運命を持ついくつかの人物に付けられています。中でも特に広く知られているのは、以下の三者です。

1. 小アイアースの異母兄弟

このメドーンは、ロクリスのオプースの王オイレウスとその妻レーネーの間に生まれた息子です。トロイア戦争の英雄の一人である小アイアースとは、父親は同じオイレウスですが、母親が異なる異母兄弟の関係にあたります。

彼は故郷ロクリスにおいて、異母兄弟である小アイアースの母エリオーピスの兄弟を殺害するという事件を起こしました。このため、メドーンは故郷を追われ、テッサリアー地方にあるピュラケーという土地へ逃れて身を隠しました。

その後、彼はトロイア戦争に参加することになります。オリゾーンという地域の軍勢を率いていた武将ピロクテーテースが、毒蛇に噛まれたか、あるいはヘーラクレースの毒矢によって癒えない傷を負い、レームノス島に置き去りにされた後、メドーンがその軍勢の指揮を引き継ぎました。

トロイア軍がギリシア側の築いた防壁を突破して陣営内に攻め込んできた際には、メドーンはポダルケースやボイオティア地方からの部隊とともに、懸命な防衛戦を展開しました。しかし、神アポローンがトロイア軍に加勢し、恐るべきアイギスの盾を用いてギリシア軍を混乱に陥れた際、メドーンはトロイア随一の勇将アイネイアースによって討ち取られ、命を落としました。

2. オデュッセウスの家臣

もう一人のメドーンは、イタケー島の王オデュッセウスに仕える家臣でした。彼はオデュッセウスが参加したトロイア戦争には同行せず、イタケー島に留まっていました。

オデュッセウスの留守中、彼の妻ペーネロペーに求婚する男たちが多数館に押し寄せ、好き放題に振る舞うようになると、メドーンは他の家臣たちと同様に、彼らに仕える立場となりました。しかし、彼は完全に求婚者たちの側に付いたわけではありませんでした。

求婚者の中でも最も傲慢だったアンティノオスが、オデュッセウスの息子テーレマコスを殺害しようと計画した際には、メドーンはその企みを密かに知り、ペーネロペーに伝えました。これにより、テーレマコスは命の危険を察知し、難を逃れることができました。この行動は、メドーンがオデュッセウスとその家族に対する忠誠心を完全に失ってはいなかったことを示しています。

やがてオデュッセウスが長い旅から帰還し、館に居座る求婚者たちを一人残らず粛清する壮絶な出来事が起こりました。この恐ろしい状況の中、メドーンはパニックに陥り、牛皮を被って椅子の下に隠れていました。しかし、幼い頃からメドーンに手厚く世話をしてもらっていたテーレマコスは、隠れている彼を見つけると、父オデュッセウスに彼の命を助けるよう強く懇願しました。

テーレマコスの願いを聞いたメドーンは、隠れていた場所から這い出て、オデュッセウスに必死に命乞いをしました。テーレマコスのとりなしと、メドーン自身が求婚者たちの一員として振る舞いつつも、内心では家族に忠実であったこと、そしてテーレマコスを助けた行動などが考慮され、オデュッセウスは彼だけは処刑せず、その命を許すこととなりました。彼は求婚者たちの惨劇から生還した数少ない人物の一人です。

3. ピュラデースの子

このメドーンは、ミュケーナイの王子オレステースの最も親しい友人として知られるピュラデースと、アガメムノーンの娘エーレクトラーの間に生まれた息子です。彼にはストロピオスという名前の兄弟がいました。

この人物に関する詳細はあまり多く伝えられていませんが、一部の古代の伝承では、ヘーラクレースの子孫であるヘーラクレイダイの一人、アリストデーモスを殺害したとされています。

その他のメドーン

上記の主要な三人の他にも、ギリシア神話や伝説には「メドーン」という名前を持つ複数の人物が登場します。

テュレーニア地方の海賊の一人。神ディオニューソスを誘拐しようとして、神の怒りに触れイルカに変えられたとされます。
半人半馬の種族であるケンタウロスの一人。
トローアス地方の都市キルラに住んでいた大工。イーピアナッサという妻との間にメナルケースとゼキスという息子がいましたが、息子たちはトロイア戦争でそれぞれネオプトレモスとテウクロスに討たれました。
ペーネロペーに求婚した多数の男たちの一人。ドゥーリキオンという島からやって来たとされています。オデュッセウスによって他の求婚者たちと共に殺害された可能性が高いです。
アテーナイの伝説的な王コドロスの息子の一人。ネイレウスという兄弟がいました。
アルゴスの王ケイソスの息子。ヘーラクレイダイ、すなわちヘーラクレースの子孫にあたります。系譜上ではヘーラクレースから数えて6代目の子孫とされます。

このように、「メドーン」という名前は、英雄、家臣、息子、海賊、職人など、様々な立場の人物に用いられており、それぞれの物語の中で異なる役割を果たしています。

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