アエトリオス

アエトリオス（古希: Ἀέθλιος, Aethlios）は、古代ギリシア神話に登場する重要な人物の一人です。彼の系譜についてはいくつかの伝承が存在しますが、最も広く知られている説によれば、彼は全能の主神ゼウスと、人類の祖とされるデウカリオーンの娘プロートゲネイアとの間に生まれた息子とされています。彼にはオプースという兄弟がいました。

アエトリオスは、アイオロス王の娘であるカリュケーを妻に迎えました。この夫婦の間にはエンデュミオーンという息子が誕生しています。エンデュミオーンは、後に月の女神セレーネーに深く愛されたことで知られるようになり、父親であるアエトリオスよりも後世にその名が広く伝わることとなります。

アエトリオス自身の功績や生涯については、特に地理学者であり歴史家でもあったパウサニアスの著作『ギリシア記』において言及されています。パウサニアスによると、アエトリオスはペロポネソス半島西部に位置するエーリス地方において、最初に王位についた人物であると伝えられています。エーリスはオリンピアの地を含む重要な地域であり、その地の最初の支配者としてアエトリオスは歴史的な意義を持つ存在と位置づけられています。彼の治世に関する具体的な記録や事績は詳細には伝えられていませんが、エーリスにおける王権の基礎を築いた始祖として認識されていたと考えられます。

しかし、アエトリオスの出自については、ゼウスの子であるとする伝承とは異なる説も存在します。もう一つの異説として、彼は実はアイオロスの息子であったとも語られています。にもかかわらず、彼は「ゼウスの子」として広く知られるようになった、と伝えられているのです。このように、古代ギリシアの神話や系譜には複数の異なる伝承が併存することが珍しくなく、アエトリオスの場合もその例に漏れません。この異説がどのように発生し、どれほど広まっていたのかは定かではありませんが、彼の存在が複数の系譜に結びつけられるほど、古代の人々にとって重要な人物であったことを示唆しているのかもしれません。

息子のエンデュミオーンの物語は非常に有名であり、彼の父親であるアエトリオスの名前もまた、この著名な人物の系譜を語る上で欠かせないものとなっています。エンデュミオーンがセレーネーの愛によって永遠の眠りについた、あるいは永遠の若さを保ったという神話は、古代ギリシア文学や芸術において繰り返し描かれてきました。アエトリオス自身に関する伝承は息子ほど豊富ではありませんが、エーリスの最初の王であり、著名な神話的人物エンデュミオーンの父親であるという二つの側面から、その名が記憶されています。

アエトリオスに関するこれらの情報は、アポロドーロスの『ギリシア神話』やパウサニアスの『ギリシア記』といった古代の文献、そして高津春繁氏による『ギリシア・ローマ神話辞典』のような近代の研究書を通じて、今日に伝えられています。これらの資料は、古代ギリシアの人々が彼の存在をどのように捉え、どのような伝承を語り継いでいたのかを理解するための重要な手がかりとなります。

もう一度検索