エンデュミオーン

エンデュミオーン（古希: Ἐνδυμίων）は、古代ギリシア神話に語られる人物で、ペロポネーソス半島の北西部に位置するエーリス地方を統治した王として知られています。その名は長母音を省略してエンデュミオン、あるいは英語読みでエンディミオンと表記されることもあります。彼は特にその優れた容姿、類まれな美貌で有名であり、月の女神セレーネーとの間に展開される悲恋の物語は、神話の中でも広く語り継がれています。

系譜と家族

エンデュミオーンの出自については複数の伝承があります。一説では、主神ゼウスの子アエトリオスと、アイオロスの子カリュケーの間に生まれたとされます。また別の伝承では、直接ゼウスが父であるとも語られています。

彼の妻に関しても諸説があり、水のニュンペーであったとか、イーピアナッサ、アステロディア、あるいはボイオーティア地方の都市イトーノスの建設者とされるイトーノスの娘クロミアー、アルカディア地方の王アルカスの娘ヒュペリッペーなど、様々な女性の名が伝えられています。

エンデュミオーンは多くの子供をもうけたとされており、息子たちにはアイトーロス、パイオーン、エペイオスがいました。娘としてはエウリュキュダーやピーサの名が挙げられます。特にエーリス地方の伝承では、彼が50人の娘を持ったとされますが、これは古代オリンピックの周期である「オリンピアード」がかつて50ヶ月を単位としていたことに関連すると推測されています。また、一説には月の女神セレーネーとの間に、ナルキッソスが生まれたとも語られています。

王としての治績

エンデュミオーンは、元々はテッサリアー地方のアイオリス人を率いて、エーリス地方へと移住してきた人物でした。そこで彼は新たな王として君臨し、地方を治めました。

彼は王位の継承方法として、自身の息子たちに競走を行わせるという珍しい方法を選びました。この競技の結果、最も優れた速さを見せたエペイオスが、エンデュミオーンの跡を継いでエーリスの王となりました。

また、彼はオリュンピアにおいて、先行するクレータの王クリュメノスを打ち破り、その支配権を奪取したとも伝えられています。これにより、彼はオリュンピアの聖域においても一定の権威を確立したと考えられます。

月の女神との悲恋

エンデュミオーンの物語で最も有名なのは、月の女神セレーネーとの関係です。ルキアーノスの著作『神々の対話』などによると、ある日、セレーネーはレームノス島近くのラトモス山で眠るエンデュミオーンの姿を目にし、その類まれな美しさに心を奪われ、深く恋に落ちました。

それ以来、セレーネーは天空を巡る職務の間も彼のことを想い、時には地上に降りて、エンデュミオーンが目を覚まさぬよう、そっと爪先で近づき、眠っている彼の顔を間近で見つめるようになりました。しかし、不死なる女神セレーネーにとって、やがて老い、死を迎える定めの人間エンデュミオーンの運命は耐え難いものでした。

彼女は愛するエンデュミオーンが永遠に美しいまま存在し続けることを願い、主神ゼウスに彼を不老不死にしてくれるよう懇願しました。ゼウスはその願いを聞き入れ、エンデュミオーンを永遠の眠りにつかせました。別の伝承では、セレーネー自身がこの永遠の眠りを与えたとも言われています。

こうしてエンデュミオーンは老いることも死ぬこともなく、永遠の美しさを保ったまま眠り続けることとなりました。そして毎夜、セレーネーは天空から地上に降り立ち、愛しいエンデュミオーンの傍らに寄り添っているのだと語られています。

伝説の場所

エンデュミオーンが永遠の眠りについているとされる場所についても複数の伝承があります。一般的にはペロポネーソス半島のエーリス地方であるとされますが、小アジアのカーリア地方にあるラトモス山もその場所として有力視されています。このため、エンデュミオーンの墓はエーリス地方とラトモス山の両方に存在したとも言われます。特にカーリア地方のヘーラクレース山の麓に住む人々は、彼のためにラトモス山に神殿を建立したと伝えられています。

また、後に月の女神セレーネーと狩猟の女神アルテミスが同一視されるようになった影響から、エンデュミオーンの恋の相手はアルテミスであったとする説も生まれました。

さらに、非常に珍しい異説として、ゼウスによって一度天界に連れて行かれたエンデュミオーンがヘーラーに恋心を抱き、ヘーラーの姿を模して作られた雲に欺かれた結果、冥府に追放されたとする伝承も存在しますが、これは一般的にはイクシーオーンという別の人物に語られる神話との混同であると考えられています。

エンデュミオーンの物語は、神と人間の叶わぬ恋、永遠の美と時の流れといった普遍的なテーマを含んでおり、古代から多くの詩人や芸術家によって主題とされてきました。

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