アカサシガメ

アカサシガメ

アカサシガメ（Cutocoris russatus）は、カメムシ目サシガメ科に分類される昆虫です。その最大の特徴は、名前の通り全身が鮮やかな朱色に彩られている点にあります。この種はかつてCydnocoris russatusという学名で長く知られていましたが、近年の分類学的見直しにより、2019年にCutocoris russatusへと改められました。

特徴

成虫の体長は15ミリメートルから16ミリメートル程度です。全体の色合いは、やや落ち着いた、深みのある朱色をしています。頭部は比較的小さく朱色で、一対の複眼は暗褐色です。頭部の背面にある単眼の周辺はわずかに隆起しており、触角の基部には小さながらも明確な棘状の突起が見られます。触角自体は長く黒色で、第一節と第二節の長さはほぼ同じですが、第三節が最も短い構造になっています。前胸背も朱色で、中央部でややくびれており、背面には不規則な隆起模様があります。小楯板もまた朱色ですが、前半分と中央の縦軸に沿って隆起しています。前翅は長く発達しており、後方に伸びて腹部の末端を越える長さになります。翅の根元側にあたる革質部は朱色ですが、先端側の膜質部は暗褐色を呈しており、通常、背面から観察した際に朱色でないのはこの膜質部だけです。ただし、非常に稀にではありますが、前胸背に黒い斑紋が現れる個体も存在します。

体の腹面側を見ると、頭部は朱色ですが、中央部と後縁付近に黒い斑紋があります。胸部の腹面はほぼ黒色で、腹部の腹面は朱色ですが、各節の縁近くに黒い斑紋が見られます。歩脚は、基節と転節が朱色であるのを除き、ほぼ黒色です。

生態など

アカサシガメは、低山帯の草むらなどで比較的よく見られる一般的な昆虫です。主に小型の昆虫を捕食する肉食性で、特にチョウやガの幼虫、あるいはハムシなどを待ち伏せたり捕らえたりして、その口吻を刺し込んで体液を吸います。

分布

日本の国内では、本州、四国、九州の主要な島々のほか、対馬や五島列島、そしてトカラ列島の中之島といった離島にも分布しています。国外では、台湾、朝鮮半島、中国本土、ベトナム、インドなど、東アジアから南アジアにかけて広く生息しています。

類似種など

アカサシガメが所属するアカサシガメ属（かつてはCydnocorisとされていましたが、現在はCutocoris）は、旧北区東部、東洋区、オーストラリア区にかけて合計18種が知られていますが、日本国内にはこのアカサシガメ一種のみが生息しています。近縁の属にも多くのサシガメが存在しますが、アカサシガメのように全身がこれほど鮮やかな赤色である種は他にほとんど見られません。

赤い体色を持つサシガメは他にも複数種存在します。例えば、ビロウドサシガメ亜科に含まれるアカシマサシガメ（Haematoloecha nigrirufa）など、赤い部分を多く持つ種はいくつか知られています。しかし、これらの種はたいてい頭部が黒かったり、前翅の革質部まで黒かったりするなど、アカサシガメと比較すると赤い部分の面積が少ない傾向にあります。また、体格的な特徴として、多くの場合、アカサシガメよりも体つきが頑丈で、歩脚も太く短いものが多いという違いがあります。

学名について

アカサシガメは、1860年代後半にスウェーデンの昆虫学者カール・ストール（Carl Stål）によって、Cydnocoris russatusという学名のもとに新種として記載されました。以来、この名前が長らく公式なものとして使用されてきました。しかし、2019年2月19日、アメリカ合衆国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校に所属する研究者ダニエル・R・スワンソン（Daniel R. Swanson）氏が発表した論文において、アカサシガメを含む、当時Cydnocoris属と見なされていた全18種について、すべてCutocorisという属名で扱うべきであると提案されました。スワンソン氏の研究によると、ストール自身は1859年にすでにCutocorisという新しい属名を設立していたにもかかわらず、1860年代後半にアカサシガメを含む3種をこの属の新種として記載する際に、特に明確な理由を述べることなく代わりにCydnocorisという属名を使用し始めたとのことです。ストールがなぜ属名を差し替えたのかについて、スワンソン氏は、Cutocorisという名称がラテン語の「小虫、ヤスデ」（cutio）あるいは「皮膚」（cutis）と、ギリシア語の「虫」（κόρις）を組み合わせた混成語であり、文法的に不適切であるという意識がストールの中にあったのではないかと推測しました。その上でスワンソン氏は、このような発想は国際動物命名規約（ICZN）の原則と相容れないものであると指摘しました。そして、現行のICZN第4版（1999年）第23条第9項に定められている、後から発表された学名が例外的に有効と認められる場合の条件のいずれにも該当しないこと、さらに、CydnocorisからCutocorisへ属名を変更することによって生じる学術的な混乱はごく軽微なものにとどまると判断し、Cutocorisへの属名変更を正当化しました。これにより、アカサシガメの学名は正式にCutocoris russatusとなりました。

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