オーストラリア区

オーストラリア区（Australasian realm）とは

オーストラリア区は、地球上の生物分布を区分する生物地理区の一つです。その範囲はオーストラリア大陸、ニュージーランド、ニューギニア島、タスマニア島、スラウェシ島東部、ティモール島、モルッカ諸島など、いわゆるオーストララシアと呼ばれる地域に及び、総面積は約770万平方キロメートルに及びます。この地域は、東洋区とは有名な生物分布の境界線であるウォーレス線によって隔てられています。ウォーレス線は、ロンボク海峡からマカッサル海峡を通り、フィリピン諸島周辺へと至る線であり、その北端の正確な位置については諸説が存在します。

地理的孤立が育んだ特異な生物相

オーストラリア区の生物相がこれほどまでに独特である最大の要因は、オーストラリア大陸が数千万年にもわたり他の大陸から孤立していたことにあります。ゴンドワナ大陸の一部として始まり、その後の分裂と漂流を経て、長期にわたって他の地域との生物的な交流が極めて限られていました。この孤立した環境の中で、独自の進化の道筋を辿った結果、他では見られない多くの固有な生物グループが誕生しました。大陸が再び他の陸塊に接近し、一部の生物が侵入してくるようになったのは、比較的最近の地質時代になってからのことです。

哺乳類の進化と多様性

オーストラリア区の哺乳類は、その特異性において最も注目されます。現生哺乳類の中で最も原始的なグループとされる単孔類（カモノハシ、ハリモグラなど）は、現在このオーストラリア区にのみ生息しています。また、育児嚢を持つ有袋類も、この地域で驚くほど多様化しました。有袋類は、オーストラリア区の他には南アメリカ大陸（新熱帯区）と北アメリカ大陸（新北区、例：オポッサム）にわずかに現存するのみですが、オーストラリア区では様々な生態的地位に適応し、捕食者、草食動物、樹上生活者など、他の大陸における有胎盤類の多様な役割をほとんど単独で担っていました。有胎盤類の捕食動物は、人間が持ち込むまではほとんど存在しませんでした。ネズミ目では、人為的に移入された種を除き、ネズミ科の一部のみが自然分布しており、特にニューギニア島で多くの種が見られることから、東洋区から比較的新しい時代に侵入してきたと考えられています。

固有種に富む鳥類

鳥類もまた、オーストラリア区を特徴づけるグループです。この地域には、エミュー科、カグー科、クサムラドリ科、クビワミフウズラ科、コトドリ科、ツチスドリ科、ニワシドリ科、フエガラス科といった、この区にのみ固有の科が多数存在します。また、ヒクイドリ科のように、東洋区にも分布はするものの、構成種の大部分が本区に分布する分類群も見られます。一方で、他の大陸、特にユーラシア大陸などで広く分布するキツツツキ科やシジュウカラ科のような科は、この区にはほとんど、あるいは全く自然分布していません。これは、前述の哺乳類と同様に、ゴンドワナ大陸からの早期の分離と、その後の他の大陸との長期にわたる隔離の結果であると考えられます。

爬虫類の特徴的な分布

爬虫類においても、この地域の長い孤立の歴史と、その後の大陸移動や海を越えた分散の影響が見られます。カメ目では、淡水に生息する種類は、主に曲頸亜目のヘビクビガメ科が中心で、この科の主な分布域が南アメリカ大陸とこの区に限られていることから、ゴンドワナ大陸の分裂以前からのつながりを示唆しています。潜頸亜目の淡水ガメとしては、ニューギニア島にはスッポン科とスッポンモドキが、オーストラリア大陸北部にはスッポンモドキのみが自然分布しています。スッポンモドキはかつて他の大陸にも分布していましたが、現生種はオーストラリア区内に1種のみです。有鱗目では、この区に固有の科としてヒレアシトカゲ科が挙げられます。ヤモリ科では、ヒレアシトカゲ科と近縁とされる説もあるイシヤモリ亜科が主に分布し、アガマ科も存在しており、これらのグループもゴンドワナ大陸由来と考えられています。しかし、オオトカゲ科（オーストラリア固有のヒメオオトカゲ亜属を含む）、トカゲ科、ニシキヘビ科、そしてイシヤモリ亜科を除くヤモリ科などは、東洋区から海を渡って侵入したグループと考えられています。ワニ目に関しては、塩分耐性の強いイリエワニが、比較的近年の地質時代に東洋区から海伝いに分布を広げたと推測されています。

両生類の限定的な分布

現生の両生類については、オーストラリア区には無尾目（カエル）のみが分布しています。この区に固有の科としてはカメガエル科が見られます。アマガエル科はアメガエル亜科が分布しており、アマガエル科が主に北アメリカや南アメリカに多く分布することから、これもゴンドワナ大陸に由来する系統と考えられています。対照的に、他の大陸や隣接する東洋区に広く分布するアオガエル科やヒキガエル科は自然分布しておらず、アカガエル科もほとんど見られません。有尾目（サンショウウオやイモリ）や無足目（アシナシイモリ）は、この地域には全く分布していません。

このように、オーストラリア区は、その長期にわたる孤立の歴史が、他に類を見ない生物相を形成した地球上で最もユニークな生物地理区の一つであり、進化や生物多様性の研究において極めて重要な地域です。

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