アカズ

アカズ (Akazu) とは

アカズは、1994年に暗殺されたルワンダのジュベナール・ハビャリマナ大統領と、その妻アガト・ハビャリマナの親族を中心とする、フツ族の非公式な政治権力の中枢組織です。「アカズ」とはルワンダ語で「小さな家」を意味し、元々は王政時代に王を囲む廷臣グループを指す言葉でした。当初は「夫人の氏族」(clan de Madame)と呼ばれていたこともあります。

概要

アカズは、ハビャリマナ大統領夫妻の子供や近親者、そして夫妻の出身地であるギセニ県出身者によって構成され、ハビャリマナ政権で要職を占めていました。彼らは、国内のツチ族や、ウガンダからの侵攻者であるルワンダ愛国戦線との政権共同運営を拒否し、自らの権力維持を最優先しました。

研究者によれば、1994年のルワンダ虐殺の基礎となったフツ・パワーのイデオロギーや、ルワンダ虐殺における人道に対する罪は、アカズが自分たちの権力を維持するためのものであったと指摘されています。1993年のアルーシャ協定の成立による権力基盤の喪失を危惧したアカズは、同協定の交渉や締結に強く反対し、ルワンダ虐殺においても主要な役割を果たしました。

アカズに含まれる人物

アカズはその範囲が明確に定義されておらず、メンバーも固定されていませんでした。しかし、アガト・ハビャリマナの兄弟であるプロテ・ジギラニラゾ、エリー・サガトゥワ、セラファン・ルワブクンバの3人は、多く研究者の間でアカズの中核的な人物とみなされています。

その他、ハビャリマナ夫妻の近親者、軍関係者、ギセニ県および隣接するルヘンゲリ県出身者、ジュベナール・ハビャリマナと同世代、またはやや年下の人物が多く含まれていたとされています。

以下に、アカズとして言及された人物の一部を紹介します。

プロテ・ジギラニラゾ: アガト・ハビャリマナの兄。キブエ県知事、ルヘンゲリ県知事を歴任。政権末期には事実上の最高権力者となり、ダイアン・フォッシー殺害への関与も示唆されています。ルワンダ国際戦犯法廷で起訴され、一審では有罪判決を受けたものの、二審で逆転無罪となりました。
エリー・サガトゥワ: アガト・ハビャリマナの弟。大統領警護隊の実質的な最高指揮官でしたが、1994年4月6日の航空機撃墜事件でハビャリマナ大統領と共に死亡しました。
セラファン・ルワブクンバ: アガト・ハビャリマナの弟。中央銀行総裁であり、インテラハムウェのアドバイザーでもありました。
カシミール・ビジムング: ルヘンゲリ県出身。開発国民革命運動 (MRND) の中央委員で1994年の暫定政権の保健相を務めていました。
アナトール・ンセンギユンヴァ: ギセニ県出身。同県の軍事作戦司令官で、ルワンダ虐殺に関与。
テオネスト・バゴソラ: ギセニ県の出身。退役軍人でルワンダ国防省官房長。ジェノサイドの計画・遂行の中心人物。
フェリシアン・カブガ: 息子がハビャリマナの娘と結婚。フツ過激派への資金援助などで国際指名手配されています。
ピエール=セレスティン・ルワガフィリタ: アガト・ハビャリマナの兄弟。
ローラン・セルブガ: 将軍。アカズの中で最も強力な人物だったとされます。
アルフォンス・ンティリヴァムンダ: ジュベナール・ハビャリマナの甥。死の部隊を指揮。

まとめ

アカズは、ルワンダの政治に深く関与し、ルワンダ虐殺という悲劇を引き起こした要因の一つと考えられています。その実態は未だ謎に包まれている部分も多く、今後の研究が待たれます。

参考文献

武内進一『現代アフリカの紛争と国家 ポストコロニアル家産制国家とルワンダ・ジェノサイド』明石書店、2009年2月。
松村高夫、矢野久『大量虐殺の社会史 戦慄の20世紀』MINERVA西洋史ライブラリー、ミネルヴァ書房、2007年12月。
武内進一「アカズ人名録 ハビャリマナ体制とルワンダの虐殺に関する資料」『アジア経済』48巻9号、ジェトロ・アジア経済研究所、2007年9月。
饗場和彦「ルワンダにおける1994年のジェノサイド」『徳島大学社会科学研究』第19号、2006年1月

もう一度検索