アギオス・ディミトリオス聖堂 (テッサロニキ)

アギオス・ディミトリオス聖堂は、ギリシャのテッサロニキにある、初期キリスト教時代の重要な教会堂です。この聖堂は、テッサロニキの守護聖人である聖ディミトリオスを記念して建てられました。創建は5世紀中期から後期に遡り、その歴史的、建築的な価値から、1988年にユネスコの世界遺産に登録されています。

歴史的背景

聖堂は、聖ディミトリオスが殉教したとされる場所、かつての公共浴場の竃の隣に建てられました。当初、聖ディミトリオスの崇敬の中心はシルミウムにありましたが、442年にテッサロニキが州都となると、その崇敬もテッサロニキへと移りました。聖ディミトリオスの殉教に関する伝説は、聖堂建設の直前に生まれたと考えられています。聖堂内に聖遺物が存在しないことも、この説を裏付ける証拠となっています。

現在の聖堂は、20世紀に再建されたものですが、その前身となる聖堂は、6世紀に火災で焼失した後、7世紀に再建されたものと推測されています。その後、テッサロニキの守護聖人を祀る聖堂として、多くの人々に崇拝されてきました。10世紀頃には、聖堂から奇跡の油が湧き出るという伝説も生まれました。身廊北側には銀貼りの六角形水盤があり、地下の配管を通して常に油が満たされていたと伝えられています。1917年の大火災で大部分が焼失しましたが、1926年から1948年にかけて、可能な限り元の建材を用いて再建されました。

建築構造

アギオス・ディミトリオス聖堂は、身廊と二重の側廊からなる、典型的な5廊式バシリカ様式を採用しています。内陣にはトランセプトがあり、平面構成は旧サン・ピエトロ大聖堂に類似しています。聖堂の内陣は、聖ディミトリオスが殉教したとされる浴場を取り囲むように配置されており、現在でも地下に浴場跡を見ることができます。

聖堂の建築材料には、様々な場所から再利用されたものが使われています。特に、円柱は高さや太さが不揃いで、一部は6世紀のものとされています。壁面の装飾は、1917年の火災で大部分が失われましたが、再建の際に一部が復元され、今日でも見ることができます。

アギオス・ディミトリオス聖堂は、その歴史的、宗教的、そして建築的な価値から、テッサロニキを訪れる人々にとって必見の場所となっています。聖堂の壮麗な姿は、初期キリスト教建築の素晴らしさを現代に伝える貴重な遺産と言えるでしょう。

参考文献

シリル・マンゴー著、飯田喜四郎訳『ビザンティン建築』(本の友社)
ジョン・ラウデン著、益田朋幸訳『初期キリスト教美術・ビザンティン美術』(岩波書店)
益田朋幸著『世界歴史の旅　ビザンティン』(山川出版社)

関連項目

ビザンティン建築

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