アクタイオーン

ギリシア神話に登場するアクタイオーン（古希: Ἀκταίων）は、悲劇的な運命をたどったことで知られる人物です。アポローンの血を引くアリスタイオスと、テーバイの王カドモスの娘アウトノエーの間に生まれたとされています。彼の物語は、エウリーピデース、オウィディウス、アポロドーロス、ヒュギーヌスといった古代の著述家たちによって語り伝えられていますが、特にオウィディウスの叙事詩『変身物語』における記述が広く知られています。

神話

アクタイオーンは、賢明なケンタウロスであるケイローン、あるいは自身の父から狩猟の技術を学んだとされます。彼は優れた狩人となり、忠実な猟犬たちを従えて狩りに出かけていました。

ある日、アクタイオーンはキタイローン山のガルガピアと呼ばれる谷で、訓練された50匹の猟犬とともに狩りを楽しんでいました。獲物を多く得た彼は、休息のため泉を探し始めました。

しかし、この谷は女神アルテミスにとって神聖な場所であり、谷の奥まった洞窟の泉は、アルテミスとその従者たちが水浴びをする秘密の場所でした。不運にも、アクタイオーンはそうとは知らずに洞窟に足を踏み入れ、水浴びをしていたアルテミスの裸体を誤って目撃してしまったのです。

純潔を守る女神アルテミスは激怒しました。彼女は手近にあった泉の水をすくい、アクタイオーンに浴びせかけながら、「お前は私の裸を見たことを決して誰にも話せないようにしてやる」と言葉を放ちました。

女神の言葉と水に触れたアクタイオーンの体は、たちまち変化を始めました。額には鹿の角が生え、手足は細く、全身は鹿の毛皮で覆われました。人間の言葉を話すことはできなくなり、口からは苦悶のうめき声だけが漏れました。水面に映った自分の姿を見て、彼は自分が鹿に変えられたことを悟り、恐れおののきました。

さらに悲劇的なことに、女神によって理性を失わされた彼の猟犬たちが、変わり果てた主人の姿を獲物と認識し、襲いかかってきました。アクタイオーンは逃げ惑いましたが、鹿の姿では猟犬から逃れる術はありませんでした。彼は逃げ場を迷ううちに猟犬たちに追いつかれ、無残にも噛み殺されてしまいました。猟犬たちは、最期まで自分たちが食い殺したのが主人だとは気づかなかったといいます。

死に関する異説

アクタイオーンの死因については複数の伝承があります。オウィディウスは偶然の悲劇とし、彼に非はなかったとします。一方、ヒュギーヌスは、彼がアルテミスの裸体を目撃した際に、彼女を犯そうとしたために罰せられたと述べています。また、自身の狩猟の腕前を誇り、女神を軽んじたことが原因とする説や、叔母セメレーとの結婚を巡ってゼウスと争い、アルテミスが鹿の毛皮を着せて猟犬に襲わせたとする説も伝えられています。

死後の伝説と崇拝

アクタイオーンが食い殺された後、彼の猟犬たちは主人を探し続け、ケイローンの元にたどり着きました。ケイローンは彼らを慰めるため、アクタイオーンそっくりの銅像を作ったとされます。彼の死の現場は、後にテーバイ王ペンテウスの死の場所ともなりました。両親のアリスタイオスとアウトノエーは、この悲劇に悲嘆し、テーバイを離れました。アウトノエーはメガラー地方に、アリスタイオスはサルディニア島に移住したといわれています。

また、アクタイオーンは死後、亡霊となってオルコメノスの人々を苦しめたという伝説もあります。住民がデルポイの神託に伺うと、遺品を埋め、彼の像を作り鉄の鎖で岩に繋ぎ止めるよう命じられました。この像はパウサニアスの時代にも残り、毎年英雄として祀られていました。

プラタイア地方との関連

キタイローン山の麓にあるプラタイアの近くには、アクタイオーンに関する伝承が残されています。パウサニアスの記述によれば、アクタイオーンが休息に使った岩「アクタイオーンの寝床」や、アルテミスの水浴びの泉があったとされます。

プルタルコスによれば、アクタイオーンはプラタイアの建国に貢献した7人の英雄の一人であり、この土地の興隆に関わった存在でした。ペルシア戦争時のプラタイアの戦いでは、ギリシア軍が勝利を祈願し、アクタイオーンを含む7人の英雄に犠牲を捧げたと伝えられています。これにより、アクタイオーンが単なる悲劇の主人公としてだけでなく、地域によっては英雄として崇められていたことがわかります。

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