アクテリオン

アクテリオン（Actelion Pharmaceuticals Ltd）は、スイスのバーゼル近郊にあるAllschwilに本社を構えていた製薬企業です。現在は、多国籍ヘルスケア企業であるジョンソン・エンド・ジョンソン（J&J）のグループ企業として位置づけられています。

この会社は、1997年12月に、循環器系の疾患に深い知見を持つジョン・ポール・クロゼール氏を中心に設立されました。創業から間もない2000年3月には、スイス証券取引所に株式を公開し、資金調達と認知度向上を図りました。アクテリオンは設立当初から、希少疾患、特に循環器系の疾患領域に焦点を当てて研究開発を進めました。

その中でも特筆すべきは、肺動脈性肺高血圧症（PAH）という難病に対する経口治療薬、ボセンタンの開発です。アクテリオンは、この薬剤の世界初の製品化に成功し、「トラクリア」という商品名で広く市場に供給しました。この成功は、それまで治療選択肢が限られていたPAH患者にとって画期的な進歩をもたらし、アクテリオンの企業基盤を確立する大きな要因となりました。

トラクリアの成功に続き、アクテリオンは循環器系希少疾患の分野で継続的に新薬開発に取り組みました。エンドセリン受容体拮抗薬をはじめ、ゴーシェ病（GD1型）の治療薬として知られるミグルスタット（製品名ザベックス）、イロプロスト、グルコシルセラミド合成酵素阻害薬など、様々な疾患に対応する治療薬の研究を進めました。また、日本の製薬会社である日本新薬とも提携し、プロスタグランジン受容体作動薬の開発なども手掛けるなど、幅広いパイプラインを構築しました。

事業展開はスイス国内にとどまらず、グローバルに拡大しました。スイスを主軸としつつも、アメリカ、オーストラリアを含む世界20カ国以上に事業拠点を設け、世界中の患者に医薬品を届ける体制を築きました。こうした事業拡大に伴い、会社の収益も大きく成長し、2015年には20億スイスフランを超える売上高を記録しています。

企業の歴史における大きな転換点となったのが、ジョンソン・エンド・ジョンソンによる買収です。2017年1月、J&Jによるアクテリオン買収の意向が発表され、同年6月に正式に買収手続きが完了しました。この買収により、アクテリオンはスイス証券取引所での上場を廃止し、J&Jの医薬品部門であるヤンセン ファーマの子会社としてその傘下に入りました。

一方で、買収に伴い、アクテリオンが有していたバイオテクノロジー関連の先端的な研究開発部門は、イドルシア ファーマシューティカルズ（Idorsia Pharmaceuticals Ltd）という新たな会社として分社化され、こちらもスイス証券取引所に上場を果たしました。興味深いことに、アクテリオンの創業者であるジョン・ポール・クロゼール氏は、この研究開発に特化した新会社、イドルシア ファーマシューティカルズへ移り、引き続き創薬研究の道を歩むこととなりました。

日本国内においても、アクテリオンの事業は展開されました。日本法人は、アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社として、2001年10月に東京に設立されました。この日本法人は、国内での医薬品販売や情報提供活動を担い、札幌から福岡まで、国内の主要都市に8つの支店を展開して活動を行っていました。

日本法人であるアクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパンは、かつて複数のテレビやラジオ番組で一社提供スポンサーを務めていました。主な提供番組は以下の通りです。

Keep On Smiling（エフエム大阪（FM OH!））
Net's Professionals〜ハートフル メッセージ〜（BS11）
こころ ふれあい紀行〜音と匠の旅〜（BS-TBS）
今を生きる・時代の先駆者たち 高将の名言→松平健・高将の名言（BSジャパン）
* 学び舎の歌声 〜with a smile〜（三重テレビ放送）

アクテリオンの歴史は、希少疾患領域における革新的な医薬品開発と、それに続くグローバルな展開、そして大手企業グループへの参画と研究開発部門の分社化という、ダイナミックな変遷を経てきました。特に肺動脈性肺高血圧症治療における貢献は、多くの患者にとって重要な意味を持つものです。

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