アグネスと幸せのパズル

アグネスと幸せのパズル（原題：Puzzle）

『アグネスと幸せのパズル』（原題：Puzzle）は、2018年に製作されたアメリカ合衆国のドラマ映画です。監督はマーク・タートルーブが務め、主人公アグネス役でケリー・マクドナルドが主演しました。この作品は、2010年に公開された同名のアルゼンチン映画『幸せパズル』をアメリカ版としてリメイクしたものです。日本では残念ながら劇場での公開は見送られましたが、デジタル配信を通じて多くの視聴者に届けられています。

物語

物語の舞台は、コネティカット州の郊外。主人公のアグネスは、夫のルーイーと二人の息子、ジギーとゲイブと共に平凡ながらも安定した暮らしを送る専業主婦です。彼女は家族のために献身的に尽くし、自身の誕生日の準備から後片付けまでを一人でこなすほどですが、決して不満を表に出すことはありませんでした。そんな彼女の日常が、ある誕生日プレゼントによって一変します。それは1000ピースのジグソーパズルでした。試しに挑戦してみたアグネスは、思いがけずパズルの魅力に深く引き込まれていきます。この新しい情熱に駆られ、彼女はより複雑で難易度の高いパズルを求めて、刺激的な都市ニューヨークへと旅に出ます。

ニューヨークでパズル店を訪れたアグネスは、一枚の貼り紙に目を奪われます。それは、来るべきパズル大会の元チャンピオンであるロバートからの、新しいパートナー募集の告知でした。衝動的にロバートに連絡を取ったアグネスは、彼との出会いを果たします。ロバートは、アグネスがパズルを解く際に示す独特の感性や、内に秘めた才能に驚きを隠せません。彼女のポテンシャルを見抜いたロバートは、アグネスをパートナーに迎え、二人三脚で週2回のペースで大会に向けた練習を開始します。

新たな挑戦に没頭するアグネスでしたが、家庭との両立には困難が伴います。パズルの練習のために家を空ける際、彼女は家族に対して「叔母の看病に行く」と偽りの理由を伝えていました。しかし、家庭を顧みないかに見えるアグネスの行動に、夫のルーイーは不満を募らせ、それがアグネスの心をさらに苛立たせます。同時に、自身の人生の目的を見つけようと悩む長男のゲイブをサポートする中で、アグネスは自分が家族に嘘をついている現実と向き合わざるを得なくなります。「自分が偽りの人生を送っているのに、どうして子供に真にやりたいことを見つけろと言えるのだろう」という葛藤が彼女の心に湧き上がります。この内なる声に突き動かされたアグネスは、ついに隠し事をやめ、家族に対してパズル大会に参加するという自身の決意を正直に宣言します。この一見ささやかな告白は、アグネス自身の生き方に対する意識だけでなく、家族それぞれのあり方にも大きな変化をもたらす決定的な瞬間となります。

製作とキャスト

本作の製作は2017年5月に開始が報じられ、ケリー・マクドナルドの主演に加え、イルファン・カーン、デヴィッド・デンマン、ババ・ウェイラー、オースティン・エイブラムズ、リヴ・ヒューソンといった主要キャストが発表されました。映画音楽はダスティン・オハロランが担当し、そのサウンドトラックは2018年7月にソニー・マスターワークスからリリースされています。

主なキャスト:
アグネス: ケリー・マクドナルド
ロバート: イルファン・カーン
ルーイー: デヴィッド・デンマン
ジギー: ババ・ウェイラー
ゲイブ: オースティン・エイブラムズ
ニッキー: リヴ・ヒューソン

(日本版には、高橋理恵子、青山穣、石住昭彦らが吹き替えキャストとして参加しています)

公開と評価

『アグネスと幸せのパズル』は、2018年1月に権威あるサンダンス映画祭でワールドプレミア上映が行われ、大きな注目を集めました。その後、ソニー・ピクチャーズ・クラシックスが全米配給権を獲得し、同年4月にはオフィシャル・トレイラーが公開されました。6月にはエディンバラ国際映画祭のオープニング作品として上映されるなど、各地の映画祭で好評を博しました。全米では7月下旬に限定的な公開（5館）でスタートし、初週末には約6万ドルの興行収入を記録しました。

批評家からの評価も全体的に好意的で、特に主演のケリー・マクドナルドの演技が高く評価されています。映画批評集積サイトのRotten Tomatoesでは、多数のレビューに基づき8割以上の批評家が支持を表明しており、平均点も高水準です。同サイトの総評では、物語の着想はユニークでありながらも、描かれる感情は非常に真摯である点、そして主演ケリー・マクドナルドの抑制された中にも光る見事な演技力が特筆され、「彼女の才能はハリウッドで過小評価されている」とまで評されています。Metacriticでも一定以上のスコアを獲得しており、多くの批評家が作品の質を認めていることが示されています。

本作は、長年家庭に尽くしてきた女性が、思いがけない趣味を通じて自身の内に眠っていた才能と自己肯定感を発見し、新たな一歩を踏み出す姿を温かく見守るような作品です。自己発見と家族との関係性の再構築というテーマを、静かで丁寧な筆致で描き出しています。平凡な日常の中に隠された可能性と、自分らしく生きることの大切さを静かに問いかける物語として、観る者に深い共感と感動を与えます。

もう一度検索