アグリガット (ロケット)

アグリガット（Aggregat）

アグリガット（Aggregat）は、第二次世界大戦期のドイツで開発された多様なロケットのシリーズ名を指します。ドイツ語で「さまざまな構成要素が協調して作用する機械」を意味するこの名称のもと、ヴェルナー・フォン・ブラウンを中心とする開発チームは、初期の小型試験機から大陸間弾道ミサイル、さらには宇宙開発へとつながる壮大な構想まで、多岐にわたるロケット技術の開発を進めました。このシリーズで最も広く知られているのは、実用兵器として運用されたA4型、すなわちV2ロケットです。アグリガットシリーズの開発は、その後の世界のロケット技術に決定的な影響を与えました。

初期開発と試験機

アグリガットシリーズは、1933年にヴェルナー・フォン・ブラウンがドイツ国防軍の支援のもと、ヴァルター・ドルンベルガーの指揮するクンメルスドルフの研究所で開始されました。最初の試みであるA1は、全長1.4メートル、直径30.5センチメートル、重量約150キログラムの小型ロケットでした。アルコールと液体酸素を推進剤とする加圧供給式のエンジンは燃焼試験に成功したものの、不安定な設計や液体燃料の扱いに課題があり、実際に打ち上げられることはありませんでした。最初の打ち上げ試験は、射点での炎上という結果に終わり、A1はさらなる発展を見ずに、改良型のA2開発へと移行します。

A2は、A1の反省を踏まえて1934年に開発されました。全長1.6メートル、直径30.5センチメートルとA1に近いサイズでしたが、安定用ジャイロスコープを燃料タンク間に配置するなど、設計上の安定性が向上していました。試験のために2機が製造され、「マックス」と「モーリッツ」と名付けられました。1934年12月、北海沿岸のBorkum島で行われた打ち上げ試験では、それぞれ2.2キロメートルと3.5キロメートルの高度に到達し、初期の液体燃料ロケットとして一定の成功を収めました。

大型化への挑戦と実用化

A2に続くA3は、後の大型ロケットA4のスケールモデルとして開発されました。全長6.2メートル、直径0.68メートル、離陸重量約748キログラムと大型化され、流線形の胴体に安定翼が追加されました。アルコールと液体酸素を使用し、最大45秒間の燃焼が可能でしたが、1937年12月にペーネミュンデで行われた4回の打ち上げ試験は全て失敗に終わりました。これは主に誘導装置の不調や機体の不安定性によるものであり、この失敗を受けて改良型のA5の開発が急がれることになります。

A5は、A3の失敗から学び、A4の実用化に向けた技術試験のために開発されました。全長5.82メートル、直径0.82メートルとA3に近いサイズですが、機体設計と誘導装置が大幅に改良されました。洗練された流線形の胴体と安定翼のデザインはA4にも引き継がれます。1938年から始まったA5の試験は安定した性能を示し、1941年までに70回以上行われました。A5は最高12キロメートルまで到達し、後のA4開発に必要な空気力学や技術の確立に重要な役割を果たしました。

そして、A3の失敗とA5での成果を踏まえ、大型実用ロケットとして開発されたのがA4です。A4は1942年3月に初の打ち上げが行われ、開発は順調に進みました。1943年からは「V2ロケット」として量産が開始され、史上初の弾道ミサイルとして第二次世界大戦中に実戦投入されました。V2は全長14.0メートル、直径1.65メートル、重量12.5トンにも達し、1トンの高性能爆薬弾頭を搭載して最大射程320キロメートルを誇りました。ドイツ国内だけで5,200基以上が生産され、戦争終結まで使用されました。

多様な派生型と未来構想

アグリガットシリーズには、A4以外にも様々な派生型や構想が存在しました。A4（潜水艦発射式）は、A4を耐圧カプセルに搭載し、Uボートで牽引してアメリカ本土近海から発射するという壮大な構想でしたが、これは実現しませんでした。

A4bは、A4に後退翼を追加し、弾道飛行終末段階を滑空させることで射程を延伸することを目的とした有翼型です。1944年末に試作機が完成し、1945年1月には初の試射が成功しましたが、終戦までに実用化には至りませんでした。この開発予算の一部は、さらに大型のA9/A10長距離ロケットの開発にも充てられました。

A6は、A5の機体に有翼を追加し、推進剤にケロシンやニトロ系を使用することを構想したモデルですが、計画のみに終わりました。偵察機としての利用やラムジェットとの組み合わせも検討されましたが、実現には至りませんでした。

A7は、A9のスケールモデルとして構想され、A5程度の機体に固定翼を備えたモデルです。海軍のために開発が進められましたが、動力付きモデルは製造されず、無動力モデルによる飛行安定性試験が行われたのみでした。

A8は、A4を大型化し、推進剤にケロシンと常温貯蔵可能な硝酸を使用することで射程を延伸することを目的とした構想です。新しい燃焼室設計により高圧での燃焼を目指しましたが、試作段階には至りませんでした。戦後、フランスに設計作業が引き継がれましたが計画は中止され、その技術の一部はフランスのロケット開発に影響を与えたとされています。

そして、第二次世界大戦末期には、さらに巨大な多段式ロケットの構想が生まれました。A9/A10は、ヨーロッパからアメリカ本土への到達を目指す「アメーリカ・ラケーテ」計画の中核をなす二段式ロケットです。A9は上段、A10は下段となり、A9には射程延伸のための固定翼が備えられました。最大射程約5,000キロメートルという、現在の中距離弾道ミサイルに相当する性能を目指しましたが、終戦までに試作機の製造には至りませんでした。

この構想はさらに発展し、A11ではA10の下段にさらにロケットを追加した三段式、A12ではA11の下段にロケットを追加した四段式が計画されました。特にA12は全長33メートル、直径11メートルという巨大なロケットであり、人工衛星や宇宙船を打ち上げる能力を持つことが構想されており、ドイツのロケット技術者が当時すでに宇宙開発の可能性を見据えていたことを示しています。

アグリガットシリーズは、その大部分が実験や構想段階に終わりましたが、V2ロケットとして実戦投入された経験は、戦後のアメリカやソ連におけるロケット開発競争の礎となり、今日の宇宙時代を切り開く技術の源流の一つとなりました。

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