アシェン光

アシェン光：金星の夜を彩る謎の発光現象

金星の夜側で観測されたとされる微かな光、それがアシェン光です。17世紀初頭から現代まで、多くの天文学者によってその存在が報告されてきましたが、その正体は未だ解明されていません。本稿では、アシェン光の観測史、そして様々な仮説について詳しく見ていきましょう。

謎の発光：アシェン光の発見と観測

アシェン光は、地球から見て金星が三日月状に見える位置にある時、その夜側に微かに輝く光として観測されるとされています。 最初の記録は1643年、イタリアの天文学者ジョヴァンニ・バッティスタ・リッチョーリによるもの。その後、著名な天文学者ウィリアム・ハーシェルもアシェン光の観測を報告しており、近年でもその目撃談は存在します。しかし、常時観測されるわけではなく、観測例は散発的です。そのため、観測ミスや錯覚ではないかという意見もあるほど、その存在自体が議論の的となっています。

興味深いのは、金星探査機による観測結果です。アメリカのパイオニア・ヴィーナス計画や旧ソ連のベネラ計画など、複数の探査機が金星近傍を通過しましたが、いずれもアシェン光は検出されませんでした。このことは、アシェン光が地球からの観測でしか確認できない現象である可能性を示唆しています。地球の大気の影響や観測機器の限界なども考慮する必要があるでしょう。

アシェン光の原因：様々な仮説

アシェン光の原因は未解明ですが、様々な仮説が提唱されてきました。初期の仮説としては、地球照が考えられていました。地球照とは、太陽光を反射した地球の光が月を照らす現象です。しかし、地球と金星間の距離を考慮すると、地球照が金星を照らすほどの明るさになることは考えにくく、この仮説は否定されています。また、金星に衛星が存在しないため、衛星からの反射光という可能性も排除されています。

他の仮説には、金星大気中の雷放電や、オーロラ現象が挙げられます。しかし、金星には地球のような強力な磁場が存在しないため、オーロラが発生する可能性は低いと考えられています。

近年、有力視されているのは、太陽の紫外線による大気上層での化学反応です。太陽からの紫外線が金星大気上層の二酸化炭素を分解し、一酸化炭素と酸素を生成します。この際に生じる酸素原子が、緑色の光を放つ可能性が指摘されています。この仮説は、アシェン光の観測された波長帯と合致するなど、いくつかの支持を得ています。しかしながら、決定的な証拠はまだ得られておらず、今後の研究が待たれるところです。

未解明の謎：今後の研究

アシェン光は、その存在すら確認されていない、謎に満ちた現象です。観測例が少ないこと、そして観測方法や機器の制約など、様々な要因がその解明を困難にしています。しかし、最新の観測技術や大気モデルの進歩によって、近いうちにその謎が解き明かされる可能性も秘めています。今後の研究によって、金星の成因や大気構造に関する新たな知見が得られることも期待されます。アシェン光は、金星研究における重要な未解明問題であり、宇宙科学における新たな謎解きとして、多くの科学者の関心を集め続けています。

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