アシナガウミツバメ

アシナガウミツバメ：南極の海を駆ける小さな猛禽

アシナガウミツバメ(Oceanites oceanicus)は、その愛らしい見た目とは裏腹に、大海原を縦横無尽に飛び回る逞しい海鳥です。英名は、18世紀の博物学者、エドワード・ウィルソンに因んでいます。名前の由来である長い足は、飛翔時にもはっきりと確認でき、他のウミツバメ類との識別点となっています。

広大な分布域と渡りの謎

アシナガウミツバメの繁殖地は、南極大陸と亜南極の島々に集中しています。ティエラ・デル・フエゴやフォークランド諸島といった南半球の島々にも生息し、南極大陸沿岸部で集団繁殖を行う様子が観察されています。繁殖期を終えると、太平洋、大西洋、インド洋へと北上し、広大な海域を回遊します。 日本近海には稀な迷鳥として、主に6～8月に記録されていますが、冬季の観察例もあります。その渡りのルートや期間、詳細な移動パターンなどは、まだ研究段階であり、多くの謎が残されています。

小さな体に秘めた驚異の航海術

体長は15～19cmと小型で、翼開長は38～42cm程度です。全体は黒褐色をしており、腹部には白い帯が、羽の上部には淡褐色の帯が確認できます。最も顕著な特徴は、その名の通り、長く黒い足です。飛翔中は尾羽の先をはるかに超えて伸び出し、独特の存在感を放ちます。

生態：波間に舞うハンター

アシナガウミツバメは、非繁殖期には外洋で生活し、ウミツバメ科の中でも最も長距離を移動する種の一つと考えられています。食性は動物食で、主食はオキアミなどの浮遊性甲殻類や小魚です。水面近くを小刻みに走りながら採餌する独特の行動様式を持ち、波風に逆らって巧みに獲物を捕らえます。 Croxall et al.(1988)の研究によると、食事量の約68％を端脚類の一種であるThernisto gaudichaudiiが占めることが分かっています。これ以外にも、軟体動物や死肉を食べることもあります。

繁殖：南極の地に築く営巣

繁殖形態は卵生です。岩の割れ目や地上に自ら穴を掘って営巣し、やや疎らなコロニーを形成します。雛は成長とともに体重が増加し、最も重い時期には成鳥の約2倍にもなりますが、巣立つ頃には1.5倍程度にまで体重が減少します。これは、巣立ちを目前にしたエネルギー消費が大きいことを示唆しています。

未解明な部分も多い魅力的な海鳥

アシナガウミツバメは、その小さな体で広大な海を旅し、独特の採餌方法で生き抜く、魅力的な海鳥です。しかし、その生態にはまだ多くの謎が残されています。今後の研究によって、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。 その小さな体に秘められた驚異の航海術と、南極の厳しい環境下での生活様式は、私たちに自然の不思議さと生命の強さを改めて感じさせてくれます。

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