アシュアリー学派

アシュアリー学派：理性と聖典の調和を目指したイスラム神学

アシュアリー学派は、イスラム教スンナ派における主要な神学学派の一つです。9世紀から10世紀にかけて活躍したアブル・ハサン・アリー・アル＝アシュアリーにその名を由来し、マートゥリーディー学派と並び、スンナ派神学を代表する学派として歴史に名を刻んでいます。

アシュアリー自身は、初期にはムゥタズィラ学派に属していましたが、後にその立場を離れ、独自の学説を展開します。当初は、ムゥタズィラ学派の理性の万能性を批判する立場から、保守的なハンバル学派に接近しましたが、最終的には両者の思想の中間的な立場を確立しました。

アシュアリーの死後、彼の弟子であるバーキッラーニーによって、アシュアリー学派は正式な学派として確立されます。その後、イマーム・アル＝ハラマイン・ジュワイニーがセルジューク朝政府の支援を受け、ニザーミーヤ学院で教鞭をとることで、アシュアリー学派はムゥタズィラ学派を凌駕する勢力となります。さらに、ガザーリーが哲学の論理学を取り入れることで、学派はより洗練され、哲学的な色彩を強めていきます。

アシュアリー学派は、理性に基づいた議論によって正統な信仰を証明しようとする立場をとっていました。しかし、クルアーンとハディースへの忠実さも重視しており、この点で、クルアーンとハディースのみに依拠する保守的なハンバル学派や、合理的な思考を優先するムゥタズィラ学派とは異なる立場を明確に打ち出しました。

例えば、クルアーンの解釈において、ムゥタズィラ学派はクルアーンは創造されたものだと主張し、ハンバル学派はクルアーン自体だけでなく、文字やそれを記した紙や墨までもが永遠の存在だと主張しました。これに対し、アシュアリー学派は神の言葉であるクルアーン自体の永遠性を認めつつも、それを記録する媒体は人間の産物であると主張することで、両派の主張を批判的に超越しました。

アシュアリー学派は、スンナ派の四大法学派であるマーリク学派とシャーフィイー学派にも大きな影響を与え、スンナ派神学の主流を形成しました。 学派の発展には、「知（'ilm）」の本質に関する議論が重要な役割を果たしました。特にバーキッラーニーによる「知」に関する議論は、アシュアリー学派における「知」の枠組みを決定付けるものとなり、14世紀の歴史家イブン・ハルドゥーンもその重要性を高く評価しています。

「知」をめぐっては、直接的な経験（ma'rifab）による知と、クルアーンやハディースを通して得られる間接的な知の二種類が議論され、ウラマーとスーフィーの間で対立が生じました。ガザーリーは、この二種類の知の間の調和を図り、それぞれの知の役割を明確にしようと試みました。

さらに、アシュアリーは人間の「行為」について、それは神の創造によって生み出されるものであり、人間はそれを受動的に獲得するだけであるという「獲得理論」を提唱し、従来の因果関係の概念を覆しました。存在論においては、原子論を支持する点で、多くのムゥタズィラ学派と共通していましたが、後世のアシュアリー学派の中には、アシュアリーの獲得理論を修正し、哲学的な概念を取り入れる動きも見られました。

アシュアリー学派に属する代表的な神学者には、バーキッラーニー、アブー・マンスール・アル＝バグダーディー、イマーム・アル＝ハラマイン、アブー・ハーミド・ガザーリー、ラーズィー、イーズィーなどがいます。これらの神学者の活動を通して、アシュアリー学派はイスラム思想史において大きな影響力を持つに至りました。

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