アジート・シング

アジート・シングの生涯

アジート・シング（Ajit Singh）は1679年2月19日に北インドのラージャスターン地方、マールワール王国で生まれました。彼の誕生は、父である王ジャスワント・シングの急死と、その後の政権争いの中で重要な意味を持ちました。

父の死と権力の空白

アジート・シングの父、ジャスワント・シングは1678年11月に死去しました。彼の死によりマールワール王国には権力の空白が生じ、皇帝アウラングゼーブは王国を帝国直轄地にする旨を宣言しました。この決定には、相続問題と拒否されていた謝金返済の背景がありました。アウラングゼーブは、ジャスワント・シングの死を利用し、彼の後継者を強制的に認めさせようとしました。

その中で誕生したアジート・シングは、王国の人々にとって希望の象徴となりましたが、アウラングゼーブは直ちに彼を王位に就けることを拒否しました。代わりに、アジート・シングの甥であるインダル・シングに王位を譲りました。これにより、王国内では権力闘争が激化しました。

王権継承を巡る闘争

アジート・シングは若くして王位の正当性を主張する運動の中で、アウラングゼーブの宮廷に出向き、そこでマンサブ（位階）を与えられましたが、本来の彼に返された権力は限られていました。アウラングゼーブは、アジート・シングとインダル・シングの二人に王国を二分させる意図がありましたが、マールワールのサルダールたちはその案を拒否しました。

その結果、アウラングゼーブはアジート・シングとその家族をヌールガル城に幽閉させる命令を下しました。しかし、周囲のサルダールたちはそれに反対し、アジート・シングを救出しました。その後、アジート・シングはジョードプルに帰還し、8月2日には即位式が行われました。

第二次ムガル・ラージプート戦争

アウラングゼーブは再び軍勢を結集し、アジート・シングを追討するためにアジュメールへ進軍しました。しかし、メーワール王国がマールワールに加勢し、両国は帝国に対抗して連携しました。この戦争は約30年間にわたる第二次ムガル・ラージプート戦争へと発展しました。

1698年、ようやくアジート・シングはマールワール王として正式に認められましたが、帝国の圧力は続きました。その後もアウラングゼーブの死までこの状況は変わりませんでした。

和解と最期

1707年3月、アウラングゼーブが死去すると、アジート・シングは同月12日にジョードプルを取り戻しました。その後、彼は新しい皇帝バハードゥル・シャー1世と和解し、臣従することでグジャラート太守に任命されました。

1719年には世襲の称号マハーラージャを賜りますが、彼の生涯は平穏なものではありませんでした。最終的には1724年6月24日、アジート・シングは自身の息子たちによってメヘラーンガル城で命を奪われるという悲劇的な結末を迎えました。彼の生涯は、北インドにおける王権と帝国の対立を象徴する歴史的な物語です。

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