アス (青銅貨)

古代ローマの硬貨「アス」とは

「アス」（as、複数形 asses）は、共和政ローマ時代からローマ帝国時代にかけて使用されていた主要な硬貨です。当初は青銅貨でしたが、後に銅貨へと変更されました。その名称は、ラテン語で「銅」または「青銅」を意味する「aes」に由来します。『新約聖書』では、アサリオン（古代ギリシア語: ἀσσάριον assarion）として言及されています。

共和政ローマ時代のアス

紀元前280年頃、アスは大型の鋳造青銅貨として登場しました。アスを基準として、様々な額面の硬貨が発行されました。

アスより小額の硬貨：ベス（2/3アス）、セミス（1/2アス）、クィンクンクス（5/12アス）、トリエンス（1/3アス）、クォドランス（1/4アス）、セクスタンス（1/6アス）、ウンキア（1/12アス）、セムンキア（1/24アス）
アスより高額の硬貨：ドゥポンディウス（2アス）、セステルティウス（2.5アス）、トレッシス（3アス）、クァドルッシス（4アス）、クィンクェッシス（5アス）、デナリウス（10アス）

アスは鋳造貨として発行されてから約70年後、その重量が段階的に減らされ、最終的には1/6ポンド（sextantal）となりました。ほぼ同時期に、銀貨であるデナリウスも発行されました。以前のローマの銀貨は、ギリシアの重量単位に合わせて作られていましたが、この時期以降、全てのローマ硬貨はローマの重量単位に基づいて作られるようになりました。当初、デナリウスは10アスとされていましたが、紀元前140年頃には16アス相当に変更されました。この変更は、ポエニ戦争の戦費を賄うためだったと言われています。

共和政時代のアス貨には、表面にヤーヌスの胸像、裏面にガレー船の船嘴が描かれていました。アス貨の重量は、硬貨の重量の基本単位であるlibral（リブラル）とされ、libralそのものが後に減らされると、アス貨もそれに合わせて軽量化されました。当初は鋳造で作られていた青銅貨ですが、軽量化に伴い打ち出しに変更されました。また、一時期、アス貨が全く造幣されない時期もありました。

ローマ帝国時代のアス

紀元前23年、アウグストゥス帝による貨幣制度改革によって、アス貨は青銅から赤みがかった銅貨に変更されました。セステルティウス（2.5アスから4アスに変更）とドゥポンディウス（2アス）は、オリカルクム（orichalcum）と呼ばれる金色に輝く青銅系の合金で作られるようになりました。アス貨は3世紀まで造幣されました。ローマ帝国時代には、アスが基本的に最も少額の硬貨となり、ごく稀にセミスやクォドランスが造幣されましたが、マルクス・アウレリウス・アントニヌス帝の時代以降は全く造幣されなくなりました。アスが最後に造幣されたのは、270年頃（アウレリアヌス帝の治世）からディオクレティアヌス帝の治世が始まる頃とされています。

アスの市場価値

ディオクレティアヌス帝の時代（3世紀）頃の給料や物価をアスで示すと以下のようになります。

農場労働者（奴隷）の給料（食事提供）：400アス
小学校レベルの先生の給料（生徒1人あたり）：800アス
理髪店のサービス（1人あたり）：32アス
豚肉1kg：380アス
* ブドウ1kg：32アス

これらの数値から、当時のアス貨の価値や、人々の生活水準をある程度推測することができます。

アスは、古代ローマの経済を支えた重要な硬貨であり、その変遷はローマの歴史を映し出す鏡とも言えるでしょう。

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