アスクレペイオン

アスクレペイオン：古代の癒しの聖域

アスクレペイオン（Ἀσκληπιεῖον, Aesculapīum）は、古代ギリシャ・ローマ時代に医学の神アスクレピオスを祀った聖域であり、病の治癒を願う人々が訪れる場所でした。「アスクレピオス神殿」とも呼ばれます。

歴史

最初のアスクレペイオンは紀元前5世紀にエピダウロスに建てられました。この聖域は保存状態が良く、現在もその姿を見ることができます。紀元前420年頃にはアテナイのアクロポリスにも聖域が建てられました。紀元前350年頃からアスクレピオス信仰が広まり、多くの巡礼者が癒しを求めて聖域を訪れました。

巡礼者は聖域内の至聖所（アバトン）に宿泊し、祈願を行った後、アスクレピアダイと呼ばれる神官医師団による治療を受けました。治療には、温泉やギュムナシオンの利用、薬草の処方などがありました。また、至聖所で眠っている間に神が夢に現れ、治療を施してくれるという伝承もありました。当時、アスクレピオス信仰に代表される神による治療と、科学的な医学による治療の区別は曖昧で、睡眠による自然治癒も重視されていました。蛇（クスシヘビ）はアスクレピオスの聖獣とされ、儀式にも用いられました。紀元前293年には、ローマのティベリーナ島にもアスクレペイオンが建てられました。

治療と教育

エピダウロスのアスクレペイオンからは、紀元前350年頃に聖域を訪れた70名ほどの治癒祈願者の名前、病名、治療法が刻まれた大理石板が発見されています。その治療法には、外科手術や麻薬様の薬を用いた催眠療法も含まれていたようです。地理学者パウサニアスは、ティターニの聖域で女神ヒュギエイア像が女性の髪の毛とバビロニアの布で覆われていたと記録しています。パロス島でも同様の儀式が行われていました。

ヒポクラテスはコス島のアスクレペイオンで医学を学び、ローマ皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌスの侍医ガレノスもペルガモンのアスクレペイオンで学んだとされています。

患者は贈り物を持ってアスクレペイオンを訪れ、入浴、断食、祈り、いけにえなどで身を清めました。いけにえには主に雄鶏が用いられました。治療は主に夢の中で行われると考えられていましたが、自然に囲まれた清浄な空気、芸術や運動、おいしい食事も重要視されました。運動、マッサージ、海水浴、ミネラル水、下剤、吐剤なども用いられ、睡眠薬としてドクニンジンが使われることもありました。

主なアスクレペイオンの所在地

エピダウロス （ギリシャ）
アテネのアクロポリス（ギリシャ）
コス島（ギリシャ）
パロス島（ギリシャ）
ローマのティベリーナ島（イタリア）
[クニドス]
ペルガモン（トルコ）

関連項目

アスクレーピオス
* クスシヘビ(Aesculapian snake): 無毒の蛇で、犬のドッグセラピーと共にアスクレペイオンで患者の癒しに用いられました。

参考文献

（参考文献リストは省略）

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