アスプコブラ

アスプコブラ（Asp Cobra）

アスプコブラ（学名：Naja haje）は、コブラ科フードコブラ属（Naja属）に分類される大型のヘビの一種です。日本国内においては、特定動物に指定されている有毒種です。かつて日本の古い文献や図鑑では、「エジプトコブラ」（Egyptian cobra）という名称で紹介されていました。

分布

主にアフリカ大陸の北部を中心に広く分布しています。

形態

成体の平均的な全長は約1.4メートルですが、中には2.6メートルに達する個体も確認されており、フードコブラ属の中でも特に大型化する種として知られています。体色は主に褐色を基調としていますが、体表に暗色の斑紋が現れる個体もいます。腹部の鱗（腹板）は白色です。

毒

アスプコブラは非常に強力な毒を持っています。その毒は主に神経系に作用する神経毒と、組織を破壊する細胞毒の混合毒であり、一度に注入される毒量も多いことから、咬まれた際の危険性が高いことで知られています。古代においては、その強力な毒ゆえに信仰の対象となる一方で、畏怖される存在でもありました。しかし、現代では毒蛇に関する研究が進み、有効な血清による治療法が確立されたことで、咬まれた場合の死亡率は以前に比べて大幅に低下しています。また、開発などによる生息環境の破壊や人間との軋轢により、生息数が減少傾向にあるため、人身への被害報告も減少しています。

生態

主にサバンナのような開けた環境に生息しています。危険を感じると、首の後ろの皮膚を広げてフードを形成し、体を垂直に立てて威嚇行動をとります。同時に、空気を急速に吐き出すことで「シューッ」という噴気音を発し、相手を牽制します。この威嚇にもかまずに接近してくる相手に対しては、死んだふりをする擬死行動をとることがあります。食性は動物食で、両生類のカエル、特にヒキガエルを好んで捕食しますが、そのほかにも小型の爬虫類、鳥類、哺乳類など、様々な小動物を餌とします。繁殖は卵生で行われます。

人間との関係

アスプコブラは、その生息地において、危険な毒蛇として人々に恐れられてきました。その一方で、農作物に被害をもたらすネズミを捕食することから、農業における益獣として古くから信仰の対象ともされてきました。特に古代エジプト文明においては、下エジプトの守護神とされる女神ウアジェトと同一視され、神聖な存在として崇められました。

アスプコブラが立ち上がって威嚇する際の姿は、女神ウアジェトを象徴する蛇形の記章として図案化され、「ウラエウス」と呼ばれました。このウラエウスは、古代エジプトの支配者であるファラオが、女神ウアジェトの加護のもとで下エジプトを統治するという権威を示すため、王冠に装着する装飾品となりました。また、ウラエウスは王冠以外にも、様々な宝飾品や護符のデザインにも用いられました。

さらに、プトレマイオス朝エジプトの最後の女王として知られるクレオパトラ7世は、自らの死にあたって、このアスプコブラに身を咬ませて命を絶ったという逸話が古くから伝わっています。咬まれた部位については、腕であったとも胸であったとも言われています。

アスプコブラは、その形態、生態、そして歴史的な人間との関わりにおいて、非常に興味深いヘビであると言えます。

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