アスプルモンの歌

作品概要

『アスプルモンの歌』（Chanson d'Aspremont）は、12世紀に成立した作者不詳のフランス武勲詩（Chanson de geste）です。この作品は、シャルルマーニュ大帝に仕える伝説的な英雄ローランの若き日、特に彼が初めて大きな武勲を立て、騎士としての叙任を受けるに至る過程を描いています。物語の舞台は南イタリアのアスプルモンの地であり、キリスト教世界と異教徒勢力との間で繰り広げられる激しい戦いが中心となります。

当時、この詩は特にイングランドで広く読まれていたと考えられています。後の時代にはイタリアにも伝わり、散文に改作されて、イタリア文学における騎士道物語の発展にも重要な影響を与えました。

物語のあらすじ

物語は、異教徒の強大な王バリガンが、南イタリアの地へ大軍を率いて侵攻を開始するところから始まります。バリガン王は、キリスト教徒側に対し、自らの息子であるオーモン王子をローマにおいてキリスト教徒の王として戴冠させるという、到底容認できない要求を突きつけるため、使者バランを派遣します。この不遜な要求を聞いたシャルルマーニュ大帝は、即座に軍勢を整え、異教徒の侵攻を阻止すべく南イタリアへ向け進軍を開始します。こうして、アスプルモンの険しい山岳地帯で、キリスト教世界の未来をかけた決戦の火蓋が切られることになります。

しかし、この重要な遠征が始まる頃、ローランはまだ年若く、シャルルマーニュによってローマに留め置かれ、「戦場に出るにはまだ早い」と判断されていました。しかし、血気盛んなローランは、自身の運命が戦場にあることを強く感じていました。彼はその拘束を振り切り、志を同じくする仲間たちを引き連れて、戦いが繰り広げられているアスプルモンの地へと急行します。

アスプルモンに駆けつけたローランは、そこで彼の人生における最初の、そして決定的な武勲を上げることになります。彼は異教徒の若き指導者であるオーモン王子と対峙し、見事にこれを討ち果たします。このローランの活躍により、窮地に陥っていたシャルルマーニュ大帝は救われ、戦いの流れはキリスト教徒側へと傾きます。この勝利の過程で、ローランは数々の豪華な戦利品を獲得しました。これらの中には、後にロンスヴォーの戦いで彼の象徴となる品々が含まれています。彼の吹く角笛オリファン、愛馬ブリリアドロ、そして伝説の聖剣デュランダルです。これらの獲得は、ローランが偉大な騎士として成長していく上での重要な節目となります。

ローランの目覚ましい活躍を primary factor として、シャルルマーニュの軍勢はアスプルモンの決戦に勝利します。異教徒でありながら「良き異教徒」と評された使者バランは、シャルルマーニュの腹心であるネーム公の説得によって、キリスト教の教えとシャルルマーニュの正しさを認め、キリスト教に改宗します。そして、ローランが得た戦利品の中でも特に重要な聖剣デュランダルは、彼の功績を称えてシャルルマーニュから彼に授けられます。このデュランダルの授与をもって、ローランは正式に騎士としての叙任を受け、名実ともにシャルルマーニュの優れた騎士の一人となるのです。

受容と影響

『アスプルモンの歌』は、中世ヨーロッパで広く読まれましたが、特に14世紀末頃（およそ1400年）にはイタリアにおいて重要な変容を遂げます。イタリアの作家アンドレア・ダ・バルベリーノによって、『アスプラモンテ』（L'Aspramonte）という題名でイタリア語の散文物語に翻訳・翻案されたのです。この『アスプラモンテ』はイタリアで絶大な人気を博し、その後のイタリア語圏における多くの騎士道物語に大きな影響を与えました。マッテーオ・マリーア・ボイアルドの『恋するオルランド』やルドヴィーコ・アリオストの『狂えるオルランド』といった、ローラン（オルランド）を主人公とするルネサンス期イタリアの著名な叙事詩作品も、『アスプラモンテ』を通して『アスプルモンの歌』のエピソードや主題を取り入れています。

このように、『アスプルモンの歌』は、ローラン伝説における彼の初期の活躍と騎士叙任という重要な出来事を描くとともに、伝説の武具であるデュランダルなどの獲得譚を通じて、後のローランの運命を暗示する作品として、文学史上重要な位置を占めています。また、そのイタリアでの翻案・普及は、中世フランスの武勲詩がイタリア・ルネサンス文学に継承・発展していく一つの典型例と言えます。

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