アゾビスイソブチロニトリル

アゾビスイソブチロニトリル（AIBN）の概要

アゾビスイソブチロニトリル（AIBN、別名α,α'-アゾビスイソブチロニトリル）は、有機合成化学において重要な役割を果たす有機化合物です。主に、プラスチックやゴムの発泡剤、そしてラジカル反応の開始剤として広く利用されています。アセトン、硫酸ヒドラジン、シアン化水素を原料として合成されます。

AIBNの反応と特性

AIBNの最も重要な反応は、熱や光によって窒素ガスと2つの2-シアノ-2-プロピルラジカルに分解することです。このラジカルは、様々なラジカル反応を開始する役割を果たします。ラジカル同士が再結合すると、2,2,3,3-テトラメチルスクシノジニトリルが生成します。

この分解反応は、隣接するシアノ基の電子求引性によって炭素-窒素結合のエネルギーが低下し、窒素ガスの生成がエネルギー的に有利であるため容易に起こります。通常、95～104℃に加熱して熱分解させます。60℃における半減期は約10時間です。

生成する2-シアノ-2-プロピルラジカルは、比較的安定で、反応位置に留まりやすいという特徴があります。このため、ラジカル重合やウォール・チーグラー反応などのラジカル反応の開始剤として最適です。例えば、スチレンと無水マレイン酸の混合物をAIBN存在下で加熱すると、ポリスチレンが生成します。また、アルケンのラジカル的ヒドロ臭素化反応にも利用されます。

AIBNの安全性と取扱い

AIBNは、別のラジカル開始剤である過酸化ベンゾイル（BPO）よりも爆発の危険性が低いとされていますが、熱による自己分解や自然発火の可能性があるため注意が必要です。メタノールやエタノールには溶解しますが、水にはほとんど溶けません。アセトン溶液では爆発の危険性が高いため注意が必要です。

冷暗所で遮光保存する必要があります。保存中に発生する窒素ガスによって容器内圧が上昇するため、開封時には注意が必要です。AIBNから生成するテトラメチルスクシノジニトリルは非常に高い毒性を持ち、米国産業衛生専門家会議（ACGIH）の許容濃度はシアン化水素の約1/10です。AIBN自体の毒性も高く、マウスへの経口投与におけるLD50は100mg/kgです。そのため、AIBNを取り扱う際には、呼吸器保護具、粉塵マスク、保護手袋、安全メガネを着用することが推奨されます。

法規制

日本では、消防法において第5類危険物（自己反応性物質）に分類され、毒物及び劇物取締法により有機シアン化合物として劇物に指定されています。

まとめ

AIBNは、ラジカル反応の開始剤として有用な化合物ですが、その毒性と反応性から、取り扱いには細心の注意が必要です。適切な保護具を着用し、安全な手順に従って取り扱うことが重要です。また、保存方法や廃棄方法についても、関連する法規制や安全データシートを参照する必要があります。

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