スチレン

スチレン（styrene）

スチレンは、芳香族炭化水素の一種であり、化学式は C₈H₈ です。その構造は、ベンゼンの水素原子の1つがビニル基に置き換わった形をしています。この化合物は、天然の樹脂である蘇合香（styrax）から最初に発見されたため、スチロール（styrol）という慣用名も付けられました。

合成

工業的なスチレンの製造方法として、エチルベンゼンを鉄触媒を使用して脱水素する技術が主に用いられています。このプロセスでは、エチルベンゼンの水素を除去することでスチレンが形成されます。古くは、エチルベンゼンを塩素化した後に脱塩化水素を経てオレフィンを得る方法や、酸化されたアセトフェノンを経由して脱水反応を行う方法が存在しましたが、現在では経済的な理由からこれらの方法はあまり使用されていません。日本国内でのスチレンモノマーの生産量は2016年度には194万7843トンに達し、工業用途での消費量は7万3896トンでした。最近では、トルエンとメタノールを塩基性ゼオライト触媒で処理する次世代の製造法についての研究が進められています。

生合成

スチレンはまた、特定の植物や細菌、菌類においても生成されます。その際に、ケイ皮酸脱炭酸酵素が関与しており、ケイ皮酸からスチレンを合成します。さらに、この酵素が大腸菌に組み込まれることで、グルコースを基に大規模なスチレン合成が行われる研究も進行中です。興味深いことに、シナモンなどのケイ皮酸を含む食品の中では、酵母によって自然にスチレンが生成され、特有の石油臭が生じることがあります。

利用

スチレンの主な用途は重合用のモノマーであり、さまざまな合成樹脂の原料に貢献しています。特に、スチレン・ブタジエンゴム、エラストマー、熱硬化性樹脂、エマルションなど、多くの合成樹脂はこのスチレンモノマーから生成されます。ラジカル重合によって得られるポリスチレン樹脂は、熱可塑性樹脂の代表としてポリエチレンやポリ塩化ビニルと並ぶ重要な存在となっています。ポリスチレンは透明容器として使用され、ポリスチレンフォームは通称発泡スチロールとして食料品の保温容器や緩衝材に広く利用されています。また、プラモデルの成形材としても、ABS樹脂とともに欠かせない素材です。

安全性

スチレンの発がん性に関しては、さまざまな評価が存在します。国際がん研究機関（IARC）では、この物質はグループ2Bに分類され、つまり、人に対して発がん性がある可能性があるとされています。対照的に、アメリカの産業衛生学会（ACGIH）では、発がん性がない物質としてA4に分類しています。日本では、スチレンは消防法に基づいて危険物第4類に指定され、引火性物質と見なされているため、作業環境内の濃度管理が求められています。具体的には、20ppmが管理濃度と設定されています。また、2012年には改正があり、この化合物は女性則の規制対象物質としても扱われるようになりました。これらの観点から、スチレンを取り扱う際は、適切な安全対策が必須とされています。

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