アダム・セジウィック

アダム・セジウィック（Adam Sedgwick、1785年3月22日 - 1873年1月27日）は、19世紀イギリスを代表する地質学者、地球科学者であり、近代地質学の基礎を確立した先駆者の一人として歴史に名を刻んでいます。

彼は1785年、イングランド北部のヨークシャー州デントに、牧師の子として生を受けました。ケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに進学し、そこで学問を修めた後、地質学の研究に深く没頭するようになります。イギリス国内はもちろんのこと、ヨーロッパ各地の地質構造に関する広範な調査研究を行いました。

セジウィックの最も重要な業績の一つは、地球の古い時代の地質区分を確立したことにあります。特に、後に「デボン紀」と名付けられることになる地層の年代を最初に提唱しました。さらに、ロデリック・マーチソンと協力して、石炭紀やデボン紀よりもさらに古い時代の地層を詳細に調査。ウェールズ地方の岩石層の研究を通じて、初期のカンブリア紀にあたる地層の分類体系を確立しました。これらの研究は、地球の年代史を解き明かす上で極めて基礎的な貢献となりました。

学術界における彼の功績は広く認められ、1821年には権威ある王立協会の会員に選出されました。また、イギリス地質学会では1829年から会長を務めるなど、学術団体の要職を歴任し、地質学の発展と普及に尽力しました。

現代の視点から見ると、セジウィックは熱心な宗教的信条（原理主義または福音派）を持つ人物でした。彼は自身の科学的探求と宗教的信仰の立場を分けて考えていましたが、地質学的な事象に対しては、突発的で大規模な出来事が地球の歴史を形作ったとする天変地異説を支持し、神による創造的な介入を信じる側面も持ち合わせていました。1844年にロバート・チェンバースが匿名で出版した進化論的な思想を含む『創造の自然史の痕跡』に対しては、エディンバラ・レビュー誌上や友人チャールズ・ライエルへの書簡の中で、その科学的根拠の希薄さや思想的な危険性を厳しく批判しました。

チャールズ・ダーウィンは、ケンブリッジ大学でセジウィックから地質学の講義を受けた初期の生徒の一人でした。セジウィックはダーウィンの才能を認め、その後のビーグル号による世界一周航海中も、二人は地質学的な観察や発見について頻繁に手紙を交わし続けました。しかし、ダーウィンが後に進化論を発表した際には、セジウィックはその考えを受け入れることはありませんでした。にもかかわらず、科学的な意見の違いにもかかわらず、二人はセジウィックが亡くなるまで変わらぬ個人的な友情を保ち続けたことは特筆されます。

セジウィックの長年にわたる地質学への貢献は高く評価され、1851年にはウォラストン・メダルを、1863年にはイギリス科学界最高の栄誉とされるコプリ・メダルを受賞しました。

アダム・セジウィックは、地質年代の確立という学術的な功績に加え、科学と信仰、そして旧来の思想と新しい思想が交錯する時代の潮流の中に生きた人物として、その生涯は地質学史だけでなく、科学思想史の上でも重要な位置を占めています。彼の名は、ケンブリッジ大学のセジウィック博物館などに記念されています。

もう一度検索