アダルトビデオの歴史

アダルトビデオ（AV）は、日本独自の発展を遂げた成人向け映像作品です。本稿では、その誕生から現在に至るまでの歴史を概観し、社会の変化や技術革新がAV業界に与えた影響について解説します。

前史：ピンク映画とポルノ解禁

1960年代後半から1970年代初頭にかけて、世界的にポルノ映画の規制緩和が進みました。日本では、1962年の『肉体の市場』を嚆矢とする「ピンク映画」が登場し、大手映画会社も相次いで参入しました。1970年代には「ポルノ」という言葉も使われるようになり、新宿界隈では素人アダルト作品を鑑賞する文化も現れました。

1969年には、家庭用ビデオテープレコーダーが発売され、そのソフトの9割がポルノ映画でした。ただし、これらは映画をビデオ化したものであり、オリジナル作品ではありませんでした。1972年からは「日活ロマンポルノ裁判」が始まり、ポルノに対する法的な議論が活発化しましたが、日本でのポルノ解禁は遅れることとなりました。

アダルトビデオの誕生と萌芽

1975年にベータマックス、1976年にVHSが発売されると、1981年5月に『ビニ本の女・秘奥覗き』と『OLワレメ白書・熟した秘園』が発売されました。これらが日本初のアダルトビデオと言われています。これらは、ビデオで撮影されたオリジナル作品であり、劇場公開型のポルノ映画とは異なる新しい流通を目指したものでした。

初期のアダルトビデオは、ラブホテルや旅館での観覧用として流通しました。1981年に一般家庭へのビデオデッキ普及率が10%を超えると、アダルトビデオも徐々に普及し始めました。映画用の大がかりな撮影システムが不要となり、小企業も制作に参入するようになりました。

1981年7月には、にっかつビデオフィルムズが『生撮りシリーズ』を刊行し、同年11月には愛染恭子の『愛染恭子の本番生撮り淫欲のうずき』が発売され大ヒットしました。監督の代々木忠は、『ドキュメントザ・オナニー』シリーズを刊行し、従来のポルノ映画の演出法からの訣別を図りました。

1982年には『ドキュメントザ・オナニー』シリーズの第一弾が8万本のセールスを記録し、アダルトビデオブームが起こりました。1983年には90社ものAVメーカーがビデオカタログに掲載されました。

淫乱の時代と美少女ブーム

1985年4月には、日本ビデオ映像が倒産し、アダルトビデオ業界の変革が始まりました。レンタルビデオ店の増加や新風俗営業法の施行に伴い、裏ビデオを販売していたメーカーが相次いでビデ倫に加盟し、市場が拡大しました。豊田薫監督は過激な性表現を追求し、村西とおる監督は黒木香を起用した作品で人気を集めました。

黒木香の登場は「本番」という行為に対する影響力を再認識させ、「淫乱女優」と呼ばれる女性たちが過激な性表現で注目を集めました。1990年代に入ると、前戯技術研究の進化とともに潮吹きが確立され、多くのAVに取り入れられるようになりました。

一方、レンタルビデオショップでは価格競争が激化し、ビデ倫の審査を受けていないビデオが店頭に並ぶようになりました。1987年には「シースルービデオ」と呼ばれるモザイクの薄い商品が登場し、需要を伸ばしました。

1989年には女子高生コンクリート詰め殺人事件が発生し、AV業界への風当たりが強まりました。ビデ倫は未成年を示唆する言葉やタイトルの使用を禁止し、伊藤友美の事件や宮崎勤事件などを受け、AVに対する抑圧が強まるかと思われましたが、業界全体が規制対象となることはありませんでした。

新しい波とインディーズビデオの襲来

1989年6月には、近松はじめの『アクションビデオビデオギャルやりませんか』が発売され、「素人もの」と呼ばれるジャンルが確立されました。また、カンパニー松尾、バクシーシ山下、平野勝之といった社会性や斬新さを追求する監督が登場し、一般映画界にも影響を与えました。

1986年にデビューした葉山レイコの『処女宮うぶ毛のヴィーナス』は、A級ルックス女優のソフトポルノ路線を再び盛り上げました。1992年にデビューした飯島愛は、AVをより大衆的な商品へと変化させました。

1987年末にはレンタルビデオ店が約2万店舗に達し、ビデ倫に所属しないインディーズ・ビデオ（無審査ビデオ）が再び注目を集めました。1998年には、森下くるみがインディーズ出身女優として初めて『オレンジ通信』AVアイドル賞を獲得し、2001年には長瀬愛が企画女優として初めて同賞を受賞しました。

セルビデオの時代と配信の時代

1990年代前半には、セルビデオという新しい流通形態が一般化しました。1993年には日本ビデオ販売の「ビデオ安売王」チェーンが拡大展開し、セルビデオブームが到来しました。

セルビデオはビデ倫を通さず別の自主倫理審査を行い、陰毛が見える、モザイクが薄いなどのアドバンテージがありました。安売王の崩壊後、ソフト・オン・デマンドなどのメーカーが業績を伸ばし、高橋がなりのマスコミへの積極的なアプローチによりセルビデオメーカーのイメージ払拭に成功しました。

2005年には麻美ゆまがデビューし、2006年には範田紗々がAVタイトルに初めて「芸能人」と銘打たれた作品を出しヒットしました。2008年には芸能人を起用するアダルトビデオメーカー「MUTEKI」が誕生するなど芸能界とアダルトビデオの境界線が低くなりました。

2000年代後半には、ソフト・オン・デマンド、DMMグループ、プレステージ各社が動画配信事業を開始し、2013年1月には女性向けアダルトサイト「GIRL'S CH」がオープンしました。スマートフォンの普及により、AVのスマホ視聴も増大しました。

コンプライアンスの時代とAV出演被害防止・救済法

2016年3月には人権団体からAV女優の「出演強要」が起きているとの調査報告書が発表され、2017年4月にはメーカー側、プロダクション、AV女優の連合組合が発足し、コンプライアンス、人権意識遵守の時代を迎えました。

2022年6月15日には、「AV出演被害防止・救済法」が成立し、作品発表後1年間は出演者が無条件で契約解除できるなどの規定が設けられました。しかし、同法はAV業界に混乱をもたらし、AV女優の仕事が減るなどの影響が出ています。

アジアの躍進と新たな技術

日本が混乱を見せる中、コロナ禍の2020年ごろから「麻豆傳媒」を代表とする中華系AVが躍進しました。また、韓国でもリベンジポルノ防止の観点から法律が緩和され、AV作品制作が解禁されました。

コロナ禍が明け、AV新法に適応するようになった2024年に入ると、大共演作が復活し、ディープフェイク技術によるAI女優、CG女優によるVR作品が生まれるなど新たな技術による時代に突入しました。

アダルトビデオの歴史は、社会の変化や技術革新とともに常に変化してきました。今後、AV業界がどのように進化していくのか、注目されます。

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