アダン・ド・ラ・アル

アダン・ド・ラ・アル（Adam de la Halle, 1240年頃 - 1287/1288/1304年頃）は、13世紀のフランスを代表する音楽家です。最後のトルヴェール、またはミンストレルとされ、アルス・アンティクアの多声音楽の作曲者としても知られています。アラスのアダン（Adam d' Arras）、アダン・ル・ボシュ（Adam le Bossu）という別名もあります。

生涯

アダンは、毛織物工業で栄えたアラス（現在のパ＝ド＝カレー県）で、役人の家庭に生まれました。「ボシュ（Bossu）」という渾名から、何らかの身体的なハンディキャップがあったと推測されますが、彼は自身の作品でそれを否定しています。パリの大学で聖職者の教育を受け、アルス・アンティクアのポリフォニー音楽に触れた可能性があります。教育後アラスに戻り、領主ロベール2世に仕え、歌謡組合（ピュイ）で音楽の研鑽を積んだとされています。作品の言葉の訛りから、多くがアラスで作曲されたと考えられています。

1276年頃、領主と共にパリへ、1283年にはナポリのシャルル・ダンジューの宮廷へ移りました。1287年または1288年頃にナポリで亡くなったという説が有力ですが、1304年頃にアラスで亡くなったという説もあります。

作品

アダンは2つの劇作品を残しており、特に『ロバンとマリオンの劇』（Jeu de Robin et Marion）は有名です。これは、当時のフランスで一般的な田園詩（パストラル）を元に、彼自身が作曲した音楽を付随させたもので、シャルル・ダンジューの宮廷で上演されました。また、トルヴェールの詩や形式によるジュー・パルティ、モテット、多声ロンドーなど、数多くの作品が残されています。

『ロバンとマリオンの劇』（Jeu de Robin et Marion）

1275年頃のアラス、または1284年頃のナポリで作曲されたと考えられていますが、正確な創作時期は不明です。羊飼いの娘マリオンに恋した騎士が、彼女を奪おうとしますが、マリオンは拒否し、恋人のロバンと仲間達とパーティーを開いて祝福するという物語です。素朴な内容ながら、現代でも上演されることがあります。第7場から第9場は、音楽や舞踏、コミカルな会話が中心で、カットされることもあります。

『葉隠れの劇』（Jeu de la feuillée）、または『狂人の劇』（Jeu de la folie）

アラスの祭で上演するために書かれたと考えられ、初演は1276年6月3日と推定されています。アダン自身や家族、友人など、彼を取り巻く人々が登場する風刺劇です。アダンの経歴の多くは、この戯曲の内容から推察されています。「葉隠れの劇」という題名が一般的ですが、実際は「アダンの劇（Li Jus Adan）」と記述されているのみです。戯曲には明確な場分けはありません。音楽は残されていませんが、アダンの音楽的素養や、登場人物にジョングルールが含まれることから、即興的に演奏された可能性が高いです。

アダン・ド・ラ・アルの作品は、中世の音楽や演劇を研究する上で重要な資料であり、彼の音楽は今日でも演奏され、多くの人々に親しまれています。

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