アッシュル・ドゥグル

アッシュル・ドゥグル：アッシリア混乱期の王

アッシュル・ドゥグル（Aššūr-dugul）は、「アッシュル神に目を向けよ」という意味を持つ名前で、紀元前18世紀頃のアッシリア史における混乱期に現れた王です。

王位簒奪と出自の謎

『アッシリア王名表』によると、彼は簒奪者であり、アムル人（アモリ人）のムト・アシュクルを倒して王位に就いたとされています。しかし、「無名の人の子、玉座の権利がない」と記されていることから、王族出身ではなく、父系原理に基づく正当な王位継承者ではなかったと考えられています。

混乱の時代

アッシュル・ドゥグルの時代は、シャムシ・アダド1世が築いた王朝が崩壊した後、各地の将軍が勢力を争う混乱期でした。アムル人であるシャムシ・アダド1世の王朝は、現地住民の反発を招き、プズル・シンによるアシヌムの退位という事件も起きています。

6人の「無名の人の子」たち

アッシュル・ドゥグルの在位中には、「無名の人の子たち」と呼ばれる6人の王も同時に統治していたとされています。これは、アッシリア王国が分裂し、王位を巡る争いが激化していたことを示唆しているのかもしれません。あるいは、ニューグロッシュが提唱するように、これらの王は実際にはリンム（紀年官）であり、後世の書記が彼らを王と混同した可能性もあります。リンムは一年任期の役職で、各年は任期中のリンムの名前で呼ばれるという年名制度を支えていました。

アダシ王朝の成立

この「無名の人の子」たちの最後に登場するアダシが、新たな王朝を創設することになります。

記録の少なさ

アッシュル・ドゥグルに関する記録は、『アッシリア王名表』の2つのコピー以外にはほとんど残っていません。彼の治世や業績については、謎に包まれていると言えるでしょう。

『アッシリア王名表』によれば、アッシュル・ドゥグルと「無名の人の子」たちの後を継いだのは、アダシの子であるベール・バニでした。

アッシュル・ドゥグルは、アッシリア史における混乱期を象徴する人物であり、その短い治世と出自の謎は、今もなお研究者の興味を引いています。

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