シャムシ・アダド1世

シャムシ・アダド1世(在位:紀元前1813年-紀元前1781年)は、古代オリエント世界におけるアッシリアの支配者として、その名を知られています。アッシリア王名表には第39代の王として記載されていますが、この時代の史料の信憑性は低いとされています。

彼はアムル人の有力部族の族長、イラ・カブカブの子として生まれました。マリを巡る争いで敗れた父と共にバビロニアに亡命した後、ティグリス川沿いの都市エカラトゥムを制圧、これを拠点にアッシリアへと進出しました。そしてアッシリア王エリシュム2世を打倒し、アッシリア王の座を奪取します。

即位後、シャムシ・アダド1世は新たな首都シュバト・エンリルを建設し、積極的な領土拡大に乗り出しました。その中でも最大の功績はマリ王国の征服です。当時のマリ王ヤフドゥン・リムは強大な勢力を誇り、シャムシ・アダド1世と激しい争いを繰り広げました。マリ側の記録にはシャムシ・アダド1世の敗北が記されていますが、最終的にはマリの内紛に乗じてマリを制圧、北部メソポタミア全域をアッシリアの勢力下に置きました。その影響力はアッシリアの領土にとどまらず、バビロンのハンムラビ王も彼の支配下にあったとされています。

シャムシ・アダド1世は、単なる征服者ではありませんでした。彼は優れた統治者でもありました。領土の重要な拠点であるエカラトゥムには長男イシュメ・ダガン1世を、マリには次男ヤスマフ・アダドを副王として任命しました。息子たちへの書簡は粘土板として多数発見されており、その中には、武勇を称えるものや、才能に劣る息子への叱咤激励、そして将来への不安を垣間見せるものなど、様々な感情が記録されています。これらの書簡は、政治家、武人としてだけでなく、一人の父親としてのシャムシ・アダド1世の側面も垣間見せています。

国内統治においても、シャムシ・アダド1世は重要な事業をいくつも実行しています。その一つがアッシリア王名表の編纂です。彼は、自らの王位継承の正当性を示すため、王名表を編纂しました。しかし、この王名表には、彼の先祖の系譜を無理やりアッシリア王の系譜に組み込もうとした跡が見られ、特に彼以前の王に関する記述には改竄が多数確認されています。彼の父イラ・カブカブは、14代も前のアッシリア王として記載されているなど、その歴史的信憑性は低いとされています。

他にもアッシュル市のエンリル神殿の再建や、「世界の王」という称号の使用など、彼はアッシリアの威信を高めるための多くの事業を行いました。

シャムシ・アダド1世は長期に渡りアッシリアを統治しましたが、紀元前1781年に亡くなりました。彼の死はオリエント世界に大きな衝撃を与え、バビロンを始めとする多くの国が、その死を年号に用いるほどでした。彼の死後、長男のイシュメ・ダガン1世が王位を継承しましたが、マリを失うなど、アッシリアは衰退を始めます。その後、バビロン、ラルサ、マリ、エシュヌンナなどがアッシリアの後釜を争い、最終的にバビロンのハンムラビ王がオリエント世界の覇権を握ることになります。シャムシ・アダド1世の死は、古代オリエント世界における大きな転換点であったと言えるでしょう。

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